「マースーター…」



ドアを開け、カウンターにいる彼を呼ぶ。
いつものようにマスターの立っている目の前の椅子に座った。



「おや、凪冴。どうしたんだい?」



グラスを拭きながら少し眉をよせる。
私は、『もう絶望的…』という暗〜いオーラを出している。それを察してくれたのかなぁ、なんて考えながら、カウンターの机に突っ伏す。



「ちょっと聞いてよー」
「ん?」



暗〜いオーラの理由。
それは………



「テストで、最低点…とっちゃった…」



と、ポツリと呟いた。
一生懸命勉強したのに…
それまで、マスターのトコには来なかったのに…(もの凄く会いたかったけど、勉強できないから自主規制)
もぅ…泣きそう………。
そういうものを『吐き出したい』という気持ちが、ため息となって出てしまった。

『…元気だして。』と言われるが、いくらマスターでも直ぐには元気になれはしない。



「そうだ。凪冴、目を閉じて。」



さっきとは違った、明るい声色だった。
戸惑ったが、何か策があるらしい声に顔をあげ、彼の言う通りに目を瞑った。



「…え?……こう?」



『そう』と彼の声が聞こえると、何かが額に触れた。
何かを理解する前に、“チュ”という音が聞こえる。
暫くして、額にキスをされたことを理解した。
体全身が真っ赤になる気がして、椅子から転がり落ちそうになった。



「なななななな…何を……?!」
「落ち込んだときのおまじないだよ。嫌だったかい?」



そういって、またもや朗らかオーラを出してニコニコしているマスター。
答えなんか分かってるくせに。
顔が熱くて、熱くて、どうしようもない。



「つ、次、マスターが落ち込んだら…わ、私がしてやるんだから!!」



赤いであろう顔を隠すように背を向けながら、これでもか!!っと叫んだ。
もう、恥ずかしくて死にそうだ。



「それは大歓迎だね。明日にでも落ち込もうかな。」



そんなことを言い出しちゃった日には、私のキャラは崩壊で。
ただ夢中で、マスターを言い負かせる言葉を見つけようと必死だった。






おまじない
(そんなあなたが大好きです)





 




 
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