「二海堂くん」
そう呼ぶといつも、本人と'''その背後にいる人'''が振り向く。
その人は、クラスメイトとか、隣のクラスの人とかじゃない。
黒い帽子に、黒いコート、長く白い髪に…青い瞳。
初めて人が、綺麗だと思った。
まぁ、人……ではないのだけれど。
ずっと前から見えていた。
他の人には見えてないらしいけど、私には姿も声もハッキリしている。
密かに想いを抱いている事は、誰にも言わない。
だって、これは不可能で、あり得ない恋だから。
「委員会のアンケート……。出てないの、二海堂くんだけだったから……その…」
「あぁ。適当に出しといてくれ。」
「あ、うん。多い意見に入れておくね。」
「……ふぁぁ」
目の前でアクビをしながら、口に手を当てる。
二海堂くんは女子に噂をされるほど美形だ。
けれど、隣の人は二海堂くんとは違った雰囲気の美形さんだ。
二海堂くんとの会話の間も、白髪碧眼(?)の人はただ黙って立っていた。
「引き留めてごめんね。じゃあ。」
そう言った私は、彼らに軽く頭を下げて、その場を去ろうとする。
二海堂くん達も私と反対方向に歩いていくのが分かる。
……二歩程度歩いたところで、何かが聞こえた。
空耳かとも思ったが、後ろから聞こえたような気がする。
ふと、振り返ると見えるのは、二海堂くんの背中と…………
私を見ている、彼。
「ご苦労様です。」
そう、発音されたのだと思う。
ずっと幽霊だと思っていた彼が、私に声をかけてくれたのだ。
彼は、にっこりと笑顔を見せると背を向けて行ってしまった。
引き留めたくて、思いっきり手を伸ばす。
──……待って……まっ───
「…って…──…名前を……」
自分の声が直に聞こえる。
何故か目の前には壁。…いや、天井。
私…寝てる…って事は…
今のは……──…夢?
無意識の内に、夢にまで出てきているなんて。
叶わない恋だと分かっていても、夢に見ちゃうなんて、バカだなぁ…私。
そう言えば…名前…。
二海堂くんが呼んでた……確か……
二海堂くんの声が甦る…
何回も思い出しているうちに、パズルのピースが合わさったように名前が浮かぶ。
「…………しろ…がね……?」
──…確か、
そう呼んでいた…───
不可能な恋。
(無意識なのが、余計辛い)