ある時君がこう言った。





「蓮二!!桜って英語で何て言うんだっけ!?」





俺の前の席で、体ごと後ろに向けている。
今は放課後。
誰も居ない教室で、彼女は日直の仕事を、俺は生徒会の仕事をしていた。
彼女は、仕事をしている…と言っても俺の机にうつ伏せになっているだけだ。





「(…正直言って邪魔だ。)」





ふと、顔を上げたかと思うと窓から入ってくる桜を見て、この質問をしたのだ。
前にも同じ質問をされたな。これは、何度目だろう…。
あれは、確か初めて話した時だったか…





『柳くん、桜って英語で何て言うか知ってる?』





あの頃から変わっていない。桜を見るたび聞いてくる。何回聞けば気がすむのか…。
桜から目をそらし、彼女を見る。





「(寝ている…)」





スースーと寝息をたてて寝ていた。
そこに、一枚の桜が目の前に落ちる。





「確か……ちぇ………チェ……チェリー………」



そんな寝言が聞こえる。夢まで桜の夢を見ているのか…。
少し笑って彼女を見る。
そして、寝返りを打つかのように腕から顔を出していた。
彼女の分けていた前髪が、サラリと顔の前までくる。


「(長いのなら、切ればいいだろう…)」






俺は邪魔そうな、前髪を分けてやった。





「…cherry blossom…」






そう呟くと心なしか、彼女が笑っている様に見えた。
自然と、彼女の髪に触れていた。黒くて細い髪が…肩から腰の間まで伸びている。
…綺麗だ…と思った。
ハッと我に帰り、『何をしているんだ、俺は。』と自分で自分を笑った。
席を立ち、彼女を起こさない様に教室を出て行く……つもりだった。





気持ち良さそうに寝ている彼女を見て……




俺は、彼女の桜色の唇にそっとキスを落とした。









CHERRY BLOSSOM
(君が目覚める五秒前)






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五秒前シリーズ
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