「あ…」
空を見ると暗い雲が立ち込めている。
そこから冷たい水がポタポタと落ちている。
「…雨だー…最悪。」
そんなことを言いながら下駄箱から靴を取り出す。
ジメジメするから雨は嫌いだ。
しかも、気分まで悪くなる。
「はぁぁ〜」
思わずため息が出てしまった。
『ため息つくと、幸せ逃げるよ!』
って言われたことあるけど…
雨降ってる時点で幸せじゃないから!
そんなことを思いながら雨が上がるのを待つ。
少し待ったけど一向に止む気配はない…
仕方ない、傘で帰るか。
そう思い、鞄の中に手を突っ込んだ。
確か…折りたたみ傘が…ッと……あった!
手に感触があったので、傘の柄を握った。
「傘、ないんか?」
そう声をかけてきた銀色の髪をした少年。
冷たそうな外見とは裏腹に、その声はとても温かかった。
「…今…帰り?」
そういえば、この人は同じクラスの男子だ…
「そうじゃけど、お前さん傘は?」
聞かれて、『あるよ』って言えばいいのに。
…何故かその三文字を口にすることはできない。
「なんなら一緒に帰るか?」
開いた傘を此方に向ける彼。
キョトンと呆気に取られている私。
「え…」
「有るなら別にええけど…」
私はその時、傘の柄をパッと離した。
そして、ゆっくり鞄から手を抜く。
彼は、返事がないことを確認したと思うと、そのまま一歩踏み出した。
「あ、の…傘…ない…。」
ピタリと傘の動きが止まる。
声に気付くと、待ってましたと言わんばかりの顔を此方に向けている。
単語ばかりで、恥ずかしくなった。
「早く行くぜよ。」
それだけ言った彼は、笑いもせず傘の下に私を入れてくれた。
鞄に傘が入っているのは内緒にしておこう。
雨の日の幸せ。
(雨は嫌いじゃなくなった)
++++++++
「あ、そだ。名前何?」
「!?名前も知らん男の傘に入ったんか!?」
「え?だめ?」「いや…別に。…仁王雅治。」
「へ〜…あたしは…」
「知っとる。詐欺師を甘く見たらアカンぜよ。」
「え?あんた詐欺師なの?」
「ほんと、俺のこと知らんのやな。」
******
誰か傘入れてくれ。
←Novel Top