『深天?いるんですか。』




扉の向こうから聞こえてくるのは、聞きなれた声。
だが今はその甘い声も、聞きたくはない。




「(…うるさい、バカ…。)」




答えてもないのに、ギィっと扉が開く。
足音のする方には顔を向けずに、うずくまった。
足音が大きくなり、ピタリと止まる。




「私が何かしたのなら謝ります、ですからこちらを向いてくれませんか?」
「…バカ。」




自分が何をしたかも分からないのに謝るな。
軍師としては頭がキレると思うけど、何でその歳で恋愛事には鈍いのか。
沈黙が続いて、仕方なく言葉を発した。




「柊、今日…女の子と歩いてた…。」
「…は…?……あぁ、そうですか、それですか…。」




呆れ笑うように、ため息をついた。
なんだ、彼女にバレたってどってことないのか。
少しふて腐れた私の髪を触り始める彼。
…なんだ、こいつ。




「あれは、アシュヴィン殿の妹君ですよ。アシュヴィン殿が帰るまで一緒にいろと言われて…。忍人もいましたしね。」
「な…!!」




何!
私が嫉妬してたのは、アシュの妹だったのか…。
通りで可愛いわけだ。
全てが分かると恥ずかしさが一気に増す。




「ふふ、そういう勘違いは大歓迎ですね。私の為に貴女が涙を流してくれるとは。遊んでみるものですね。」
「遊んでみる……?」




遊んでみるってなんだ。
からかってたわけですかっ?!




「遊んでみるものって何!!」
「…言葉のアヤですよ。」
「何その間!!!」
「特に意味はありませんよ。ふふ。」







只今嫉妬中
(まだまだ終わらない私の嫉妬)
(興味はつきませんね)






 



 
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