「忍人さん…」




自分の声だけが響く。
返事がない事はとうに分かっているのだが、呼ばずにはいられない。
もしかしたら、後ろから『千尋』と声をかけてくれるかもしれない。
……生きているのかもしれない…と。




「千尋。」
「っ?!」




バッとふりかえるとそこには、困ったような顔をした風早がいた。
想像していた人とは違い、少し自分に呆れる。




「また、彼の事を…?」
「……。」




風早の質問に目を伏せた。
その行動が質問を肯定しているようにも見える。




「…いつもね、彼が私を叱ってくれた。褒めてくれた、期待してくれた。私は彼を頼って…慕って…愛……し、た。」




私が紡ぐ言葉が自分でも重く感じた。
唇が震え、喉が熱く、上手く喋れない。
…そう気付いた時には頬に涙が伝っていた。




「もし、彼が生きていたら。もう一度私の名前を呼んでくれるなら。……何回も考えたの。でもやっぱり、あの人は還ってこない。……風早、私…どうしたら…いいの?」




昔から、泣くと風早が慰めてくれた。
そんなことを考える私は、全然成長していない。
甘々のままだ。
また、忍人さんに怒られてしまうだろうか…。




「…忍人は残していきました。」




風早は私の頭をポン、と撫でてくれた。
この世界に来ても、それは昔と変わらない。
そして優しい声色で言った。




「この国と仲間、そして……貴女を…命をかけて護り、残していきました。その意味が、分かりますか?」




さっきよりも大粒の涙がたくさん落ちていく。






彼の残したこの国を…。






彼が愛したこの国を…。








次は私が、貴方の残したこの国を…命をかけて幸せにしようと。






そう、誓った。




当たり前のように隣にいた彼は、もういないのだから。










当たり前なんてないと知った
(千尋、俺は君を─愛していた─…)





 



 
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