[act.2]


「なんてこった。」



蓮二はひどい。
電車に揺られながらそう思った。
たまたま今日は午前授業だかよかったものの…。
私がノリツッコミをすると分かっていたんだ、きっと。



「っていうか、乾って誰だよ…」



そう、私は彼のせいでノート一冊の為に東京に出向くことになったのだ。
"青春学園の乾"と言う人に届けるなんて…。
いやはや、面倒である。

ゴツ、と電車の扉に頭をぶつける。
電車なんて全然乗らないからバランスが……
と思っていると、次の駅で乗る人が多いらしく、すぐにぎゅうぎゅう詰めになってしまった。
これがいわゆる満員電車というやつか。



「……?」



満員電車で密着するのは分かる。
でもね、明らかにおかしい手があるのは気のせいだろうか。



「…っ…ぇ…!」



気のせいではなかったみたいだ。
完全に腰から足を撫でられている。
いつも『変質者なんて、この手でぶっ飛ばしてやるよ!』とか言ってた自分が馬鹿みたいだ。
いざ、こんなことになると、声を出す事さえ怖い……。




「……っ……ぁ…のっ…!」



あぁ、もう…どうしよう……!
怖くて、言葉が出てこない……!










「ちょい、おっさん。何してんねん。」



手が止まった。
振り向くと、眼鏡の男子生徒らしき人がおじさんの腕を掴んでいた。
おじさんのしかめっつらを見るに、相当な力で掴んでいるようだ。




「…な、なんだね君は…!」

「"なんだね"ちゃうやろ。ええ歳こいて何してんねん。」




キッと睨まれたおじさんはビクッとして、視線を反らした。
電車が駅に着いたらしく、私は一度ホームへ出た。




「お嬢さん、大丈夫かぁ?」

「ぁ…は、はい。」

「このおっさん警察に突き出そう思うてんねやけど、ついて来てくれへん?」




おじさんの腕を掴んだまま、声をかけてくれている男子生徒に私はコクリと頷いた。


.
.
.



「ほな、よろしゅう頼んます。」



警察の人に事情を話し、おじさんを引き渡してきた。




「ショックやと思うけど、これから気ぃつけや。」

「はい…。あの、ありがとうございます……こういうこと、始めてで助かりました!」




ガバッと頭を下げると驚いたような声が聞こえた。
ゆっくり顔を上げる。




「は、始めて?!」

「は、はぁ…。」

「お嬢さんごっつ可愛えから…、てっきり──あ、いや、なんでもない、気にせんといて。」




めちゃめちゃ気にします。
"ごっつ可愛え"なんて、某テニス部の参謀に聞かせてやりたいわ。




「でも、ほんっまに!満員電車は気ぃつけなアカンよ。変なおっさんの一人や二人は絶対おるからな。」




『はい』ともう一度頭を下げると、



『ほな。さいなら。』



と言って、人込みに消えていった。





あ…名前、聞くの忘れちゃった。






お嬢さん、お嬢さん
(お嬢さん…だなんて…年上?高校生かな)
(…ちょい待ち、あの制服…たしか…)






*******
氷帝も好きなんだよ。