「でさ、柳くんはどうなったわけ?」
「朱鷺原さんと一年の西村さんだっけ?
文化祭の時は絶対に朱鷺原さんと付き合ってると思ったんだけどなぁ…。」
「いや、あれはただの事故で、本当は西村さんと付き合ってるんでしょ。」
「まぁ、そっちが妥当だよね。」
「あたしが男だったら迷わず西村さんだしね。」
「ってことは、確実西村さんじゃない?
そう考えると、柳くんが朱鷺原さん好きになるとか、ありえなさそうだねー。」
ある教室での女子生徒の噂話に、足を止めて聞いてしまった。
まさか、自分の事を言われているとは。
確かに、私が男でも麗華ちゃんを選ぶと思うけど。
けど、柳は私の事を――好きって…――言ってくれたもん…。
左腕をキュッと握ると、鈍い痛みが走った。
ここ怪我してるんだった…。
手首まで巻いてある包帯を見て、隠すように袖を伸ばした。
「……朱鷺原?」
「…っ…や……なぎっ?!」
いきなり声をかけられ、振り向いた。
久しぶりだ、こんなに近くで柳を見るのは。
「……」
咄嗟に掴んだ自分の左手に包帯が撒かれているのに気付くと、視線から逃れるように背に隠した。
顔をそらす。
何も聞かないで。
「どうしたんだ、その…傷。」
すぐに明るい顔を見せて、『家で転んだんだ』とだけ言うと柳は少し黙り込んだ。
「柳。一個だけ聞いていい?」
「なんだ。」
静かに答える彼に、少し顔をそらす。
私の質問に、答えてくれるだろうか。
「……私の事、好き?」
「…なんだその質問は。」
「ね、答えて。」
「……どうした…?」
いきなりの質問に驚くのは分かる。
こんな事を聞くのは、きっとさっきの噂話を聞いたからだろう。
いつになく、すごく不安になってしまったのだ。
……でも、どうして、なんで言ってくれないの?
前は言ってくれたのに…。
本当に私の事が嫌いになったの?
嘘でも、私に言えないの…───?
「答えてよっ!!!!」
「…朱鷺原っ?……」
何故か気持ちが高ぶり、叫んでしまった。
柳生の言葉も思い出せないほどに…。
そんな私を不思議そうな声で呼ぶ。
どうして、どうして…
気が付くと私は柳に背を向けて走っていた。
辛いとき助けてくれるのは柳だと思っていた。
今までにも小言は言うものの、確実に私を助けてくれた。
たった一言で私は救われるというのに…。
前みたいに……言って…。
言ってよ、『好き』って……言って──
うそでもいいから
(好きだと言って)
(言葉にしなければ分からないのか)
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そんな蓮二が好きです。
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