携帯を閉じると仁王は顔の前で両手を合わせて頭を下げた。
「すまん、急用が入った。誘っといて何じゃが俺は行くぜよ。」
仁王は走り際にもう一度『すまん』といって行ってしまった。
何だか本当にあっという間だったな…。
「柳生、このあとどうする?」
「…用事は終わりましたし…朱鷺原さん、このあとは?」
「特にないけど…柳生は?」
「私も特には。では、新しく出来た喫茶店に行ってみませんか?」
まさか、柳生からお茶のお誘いを受けるなんて思ってなかった。
断る理由もなく、それよりもう少し柳生と話していたかったと言うのもあった。
その喫茶店は風合いがよく、一言で言えば"素敵なお店"というやつだ。
二人とも紅茶を頼み、少し紅茶に詳しいらしい柳生の話を聞いていた。
「私…柳生を好きになればよかったのかなぁ…」
いきなり口走ってしまった言葉に柳生は紅茶を吹き出しそうになり、盛大にむせた。
「…適当な事を言わないでください。」「て、適当じゃなもん!」
「それで?貴女は私を好きになれるんですか?」
サラッと聞かれた。
柳生は好きだ、好きだけど…大好きな友達だ。
仁王だってブン太も、真田だって…あ!もちろん幸村様もですが!
「…それは…」
返答に困っていると、柳生が少し目を伏せた。
「無理なのは貴女が一番よく分かっているはずです。好きになろうと思って好きになるのは本当の"好き"ではないでしょう?」
柳生を好きになっていれば、こんな思いしなくてすんだと思っていた。
普通に好きになって、こうやって二人でお茶をするのも泣くほど喜んで…。
それを少しでも望んでいた。
それで柳生を好きになりたい…だなんて。
馬鹿みたい…。
どれだけ頭で考えたって心は…───
「……柳生ってすごいね…。何でもお見通しなんだ…。」
言い終わると一粒の涙がこぼれた。
柳生の顔を見ると、いつものように柔らかく微笑んでいた。
「大丈夫です、"彼"を信じましょう。」
恋じゃなくて友情
(私はいい友達を持った)
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柳生はS気のあるいい人だと嬉しい。
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