「あの、朱鷺原先輩…」
部活が終わってから、掃除をしていると、消えるような細い声が私を呼んだ。
振り向くとやっぱり麗華ちゃんがそこにはいた。
「どうしたの?」
「……………その……」
恥ずかしそうに、俯く。
目を伏せる麗華ちゃんを見て、思った事は一つだけ。
まつげ長っ。
「ちょっと、来てもらえますか?」
頷いて、麗華ちゃんが歩く方向に後ろからついていった。
歩いている途中、まつげが気になって気になって、自分で触ってみるが…。
私………すごく短い…。
やっぱ、可愛い子は違うなぁ…。
ちょっと部室から離れた木陰で、麗華ちゃんが口を開いた。
「あの、朱鷺原先輩って、…………柳先輩と付き合ってるんですかっ?」
「………え…?」
まつげを触っていた手を引っ込めて、彼女を見る。
ほのかに頬が赤く染まっている。
内心、いつかは聞かれるだろうと思っていた。
「えっと、…柳とは…」
「柳先輩に聞いたら、付き合ってないって言われたんで…」
「…え?……あ…………。うん、そ、そうなんだ、付き合ってナイナイ!」
『よく言われるんだー』と言って笑ってごまかした。
あの人はマジで私を下僕だと思っているのだろうか。
っていうか、彼女だと思ってるのは私だけか。
そろそろ彼女にしてくれたっていいじゃない。
「…そこで、先輩にお願いがあるんです。」
「ん?何〜?」
「………えっと…………その……」
また、モジモジと俯き始めた麗華ちゃん。
どんだけシャイなんだろう、可愛いなぁ、まつげ長いし。
「どうしたのっ、この若菜さんにまかせてみなさいって!」
「本当…ですか?」
「ホント、ホント、で?何になやんで…──」
「協力してくれませんか?」
一瞬、嫌な予感が過ぎった。
無意識に、パッと目を離してしまっていた。
「私、柳先輩が好きなんです。」
彼女の口がゆっくり動いた。
柳が、好き…。
前に仁王に一度だけ、『言ったもん勝ちってやつじゃろ』と言われたのを思い出した。
……言われて、しまった。
「先輩、柳先輩と付き合ってないんですよね?だったら、私の事応援してくれませんか?」
何だか、いつもと違う雰囲気の彼女の言葉が、異様に胸に刺さる。
「なんで…私…?仁王とか幸村とか、いるじゃない?」
「だって、朱鷺原先輩の方が相談しやすいし、柳先輩とも仲良いじゃないですか。………ね?先輩。」
グッと覗き込まれて、息を呑んだ。
「わ…たしは………」
柳先輩は、付き合ってないって…──
その言葉が頭にぐるぐると回っている。
「……い、いいよ…。」
「本当ですか?!やったぁ!ありがとうございます!」
幸せそうにニコニコしている麗華ちゃんに、一生懸命笑顔を作った。
「あ、先輩も、好きな人とかいたら、言ってくださいね!私協力しますから!」
そういって、麗華ちゃんは友達の元へ走って行った。
私は、こんなことをしていいのだろうか。
けれど、麗華ちゃんのあの笑顔を見ると、これで良かったんだと思った。
…………そう言い聞かせた。
後悔する道を、選んでしまった、と少しだけ悔やんだ。
一人になった麗華は木陰に入り静かに呟いた。
「覚悟してくださいね、朱鷺原先輩…──」
そういって、ニヤァっと口元を吊り上げた───。
宣戦布告
(はじまりはここから)
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ベタな話は大好きです。
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