「柳ーー!!」
「…何だ、煩いぞ。」
私が叫びながらF組の近くへ行くと、柳はやはり呆れたように本から顔をあげる。
本から顔をあげてくれるようになったのは、少しでも進歩しているという証拠なのだろう。
そして私は彼にビシッとプリントを見せる。
「あのね!この前教えて貰ったところ、出来たんだ!!ほら、点数上がった!!!」
そのプリントはテストのようで。
右上には、66点と書かれていた。
「…常に40点台のお前にしてはよくやったな。」
「!!うん!柳のおかg…………」
珍しく褒めてくれたので、満面の笑顔で返そうとしたが…
その心意気も虚しく、後ろから何者かに押され顔面から壁に激突。
ガンッ
「…大丈夫か?」
柳の声が聞こえる。
嘘!あの柳が心配してくれてる?!
嬉しくなってグリンっと首を回す。
「やな……っ」
すると、目に入ってくるのは想像していたものと違う光景だった。
柳が手を差しのべているのは、私の後ろに倒れている女子生徒。
「あ、す、すみません〜、ありがとうございますっ」
私にぶつかって来たであろう女子生徒は柳の手を取り、立ち上がった。
髪は少し茶色がかかっていて、顔立ちはとても綺麗だ。
全体的に華奢でこう言う子の事を、お姫様と言うべきなのだろう。
彼女は私に気付くといそいそとこちらを向いた。
「す、すみませんでした…!え〜と、大丈夫ですか…?」
「あ、大丈夫、気にしないで!」
私は赤くなったおでこを擦りながら手を振った。
本当にかわいい子だ……。
だが……彼女の頬が赤くなっていたのは気のせいだろうか。
彼女はもう一度『すみませんでした!』と言うと、パタパタと可愛い効果音が似合いそうな走り方で行ってしまった。
「朱鷺原、血。」
「は?血………?…わぁぁ!」
柳に言われて初めて気付く。
額に血が流れているのだ。
さっき打ったときにでも切れてしまったのだろう…。
***************
「だははは!!何だよ、そのおでこ…!」
「ぶ!!傑作ぜよ。」
「先輩、大丈夫ッスか?!」
部活の時間、やはりあのプリガムに爆笑された。
心配してくれるのは、赤也だけだった。
4人で話していると、幸村が収集をかけた。
「皆集合。今日は紹介する人がいる。」
「えと、2年A組西村…麗華です。今日からマネージャーをやることになりました。よろしくお願いします!」
幸村の隣にいるのは、今日ぶつかったあの美少女。
改めて見ると、やはりふわふわしていて小柄で可愛い。
周りの男達が『かわいいー』とかほざいてやがる。
まぁ、可愛いけどさ…。
「あの!今日の先輩ですよね!?す、すみませんでした!テニス部のマネージャーだったんですね!」
「うん、麗華ちゃん…でいいかな?私は朱鷺原若菜、よろしくね。」
麗華ちゃんは『朱鷺原先輩、よろしくお願いします。』とペコリと頭を下げた。
それから、マネージャーの仕事を教えていく。
片付けの場所や、ドリンクの時間など。
「マネージャー、どーりーんーくー!」
「あ、はーい!」
返事をして、ドリンクを持つ。
麗華ちゃんには他の人の分を頼んだ。
「はいはい…って、またブン太?!呆れた、何杯目よ、あんた。」
「んーーー今日は軽く20杯だぜぃ」
『バカじゃないの?!』とブン太を罵り、『だって仕方ねぇじゃん』と言うブン太はやはりピッグにしか見えないのだ。
「いい加減にしないと…」
「柳せんぱ〜い!!」
「「……ん?」」
ブン太と顔を見合わせる。
声のする方に顔を向けると、ドリンクを受けとる柳の隣に……新マネの彼女。
「あぁ、ありがとう。」
「これから〜、何でも言ってくださいね?柳先輩!」
……あれーー??
何だか嫌な予感が過る。
すると、後ろから仁王が私の肩に手を置いた。
「あれは、参謀に惚れとるのぅ。前のお前さんと同じ顔じゃ。」
そう言えば、私が柳を好きって気付いたのは仁王が最初だったな…。
少し前の事を思い出した。
あの時は嫌われてたのによく頑張ったな、私!
いや……そうじゃなくて!!!
「ほ、惚れ…?麗華ちゃんが…柳に…?」
「あぁ、ほれ、見とりんしゃい。」
そう言うと仁王は、スタスタと私の前を通り抜け、麗華ちゃんのいる所に向かう。
ニコニコした詐欺師スマイルで話しかける。
え、ちょ、何、あの笑顔!
「西村、柳の事好きなんか?」
「えぇ?!仁王先輩、な、な、何を…////」
そう言いながら、そのお姫様は顔を真っ赤にした。
……私も…あんなに真っ赤だったのかな、あの子も、柳の事が…………。
かわいいひと。
(はじめての後輩)
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第ニ幕突入ーー!
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