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東京池袋に一台のバイクが走っている。
それは途轍もなく速いバイクで後ろから追い掛けて来ている白バイが霞むほどだった。
漆黒の色をしており、ヘルメットは一本の角が生えている。そのヘルメットもまたバイクの色同様漆黒のフルフェイスだった。
というかライダースーツも漆黒だったので、夜走ったら間違いなく闇に紛れられる格好だった。
ただ一つ抑えられないのはエンジンの爆音。
腹に直接響くような音で爆走するバイクは、どこを走ってもすぐに白バイに見つかりまた追い越す。
それを彼は何度も繰り返していた。
もちろんそれもただの『遊び』なのだが。
バイクを運転している少年の名前は神無月月丸。
闇に身を置く彼だが、何も四六時中『仕事』をしている訳ではない。
今日は彼の所属している組織のボスである赤城怜王から休みだと告げられたので久しぶりに秋葉原へと向かっている所なのだ。
時速はたった今、三百キロメートルを越えた。
周りの景色は線になって、最早前方しか見ることが出来ない。
それも普通ならの話だ。
彼は天才発明者なのだ。
今被っているヘルメットには様々な機能が付いていて、時速三百キロメートルというのにバイクから振り落とされないのはこの機能のおかげという他無い。
とまぁ、長々と語ってきたが、一言で月丸の事を表すと、
『興味本意』という言葉が一番似合う存在だ。
機械を弄った時の最初の感想は『知りたかったから』というものだ。しかも初めて弄った時の年齢は三歳との事だ。
初めて怜王の組織で人を殺したのも『本当に殺したら人間は死ぬのか興味があった』からだ。
彼の原動力はいつでも『興味』であり、『興味』がなくなれば即座にやめる。
不意にフルフェイスの内側に丸いカーソルが七つ浮かんだ。今走ってる場所から前方三百メートルという距離だ
(どうしましょうかねー。今からだと十秒で着きますが…………ま、『興味』が湧いてきましたし一回行ってみましょうかねー)
彼はハンドルを右へと切ってカーソルの表示されている場所へと向かった。
本当に十秒で着くとは思いもしなかった彼は、少し自分の技量を褒める。
カーソルは右へ左へと忙しなく動いているらしい。
一旦バイクから降りてヘルメットを被ったままカーソルが表示されている場所へと向かう。
そこは路地裏を歩いて曲がって歩いて曲がってを繰り返したその先にある小さな広場だった。
路地裏の影から身を隠して様子を伺う。
最も、殺しのプロである月丸にとって、一般人の動きなど止まって見えるレベルに到達しているので隠れる必要がないが、クセになってしまっている為仕方が無い。
物陰から隠れて見た光景に月丸は少々唖然とした。
一人の少年が倒れている少女を守るように立ち塞がり数人のガラの悪い男達と喧嘩している。
何故? と月丸は思った。
余りにも効率が悪過ぎるからだ。
ざっと確認するに六人相手にあのスタイルじゃあ勝ち目はほぼ無いと言っても過言ではない。
何より動きが大きすぎるし大雑把だ。
少年の見た目は一言で表せる。
『無謀』だ。
そんな彼は後ろからガタイの良い男に羽交い絞めされ、思い切り顎を殴られた。
遠目から見ても会心の一撃だ。
少年はガクリと膝から力が抜け、倒れそうになるが羽交い絞めされているので倒れられない。
周りに居た男達は不敵な笑い声を出しながら少年に向かって拳を振り上げた。
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