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雪の冬と海の夏



私には付き合って1年になる彼氏がいます。
名前はウミくん。
いつも周りに人が集まる所謂人気者タイプだけどとっても優しい、そんなウミくんが私は大好きです。

「ユキー!」
「おはようウミくん」

朝教室に入ると1番にウミくんは私に挨拶をしてくれ、そのまま私の席まで来て取り留めのない話を2人でする時間になります。
暑いだとか、宿題がどうとか。
毎朝の繰り返し作業。

私たちの視線の先にはいつも、クラスでも有名な夏冬コンビ。
彼らはいつも仲良しで誰が見ても両思いだけど、付き合ってはいないといいます。
どうしてなのかよくわからないけれど、2人はとても強い絆で結ばれていることがわかります。なんて素敵な2人でしょう。

予鈴が鳴る少し前、2人が自然に解散するのを見届けると、私たちも解散します。
私はフユのもとへ、ウミくんはナツくんのもとへ。

「ふーゆちゃん♪相変わらずラブラブですねぇ夏冬コンビ」
「付き合ってないしラブラブじゃない」

フユはちょっとクールで、でもとっても可愛い女の子です。
こうやってからかい気味に話しかけると冷たく切り返されます。

私とフユは中1からの付き合いで、もう4年目となりますが、初めて会ったときからフユとナツくんとは仲良しでした。
ナツくんとは幼馴染だそうです。

「ていうかあんたら本当なんで付き合わないの?両思いじゃん」

フユの隣の席の子がこう聞くのも何回目でしょうか。
彼女は夏冬コンビにはやく付き合って欲しいと思っているようです。

教室の反対側で少しニヒルに笑ったウミくんがナツくんに同じことを質問しているのが聞こえました。
これはタイミング的に…

「「別に、付き合ってどうにかなるわけじゃないし」」

やっぱり。
流石の夏冬コンビ、かなりの距離があるというのに綺麗にハモりました。
教室中が笑いに包まれます。
私も周囲から見れば完璧なまでに、楽しそうに笑えているはず。

でも今日…いえ、最近のフユは少しおかしいです。
こんなときいつもなら照れたように笑うのに、最近は苦笑い。
いつもの可愛らしいフユの笑顔ではないのです。
誰も気がついていないけど、私には、わかります。

俺には付き合って1年になる彼女がいる。
名前はユキ。
ユキは大人しくてしっかり者で、みんなに頼られているタイプだ。
そんなユキのことを俺はとても大切に思っている。

俺とユキの出会いは去年の春。
教室でぼんやりと、今やクラスでも有名な夏冬コンビを眺めているところを俺が話しかけた。

「あいつら仲良いよなぁ、付き合ってんの?」

ユキは話しかけられたこと…近くに人がいたことにとても驚いたようだった。
しばらく黙りこくったあと、一言。

「付き合ってないですよ」

とだけ言った。
そのときわかった、こいつは俺と同じなんだと。

それからユキには俺から何度か話しかけるようになった。
ユキははじめこそ戸惑っていたようだったが、徐々に打ち解けてくれ、夏頃には付き合ってほしいとユキから言ってきた。

それはクラスで、ユキが同性愛者ではないかと噂されはじめた頃だった。
しかし俺と付き合うようになってからその噂はすぐに消えた。
当然だ、彼氏がいるやつを同性愛者だとはなかなか思わない。

ユキの、俺のことが好きという気持ちに嘘はないだろう。
俺だってそう、ユキがとても大切だ。
ただそれが恋愛感情ではない、ただそれだけのことで。

「ウミくん〜」

放課後の教室でいつもの通りユキとぐだっていると、心なしか元気のないユキがぐでっと机に倒れた。

「おおぅ、なんだなんだ。どうしたユキ」

あまり感情を表に出すことのないユキの珍しい様子を少し微笑ましく思いながら、ゆっくりと頭を撫でてやる。
いつも気を張っているユキだが、俺の前でだけはこうして素直でいてくれる。
それは俺も同じで、ユキの前でだけ気を張らずにいられる。
だからこうして毎日ここでぐだぐだと過ごしているのだ。

「最近フユの元気がないです」
「…そうか?」

俺にはわからなかった。
俺だって2人のことを見ているのに。

「うー…ナツくんはいつも通り…ですよね?」

そう聞かれてナツのここ数日を思い返してみるが、いつもとなんら変わらなかったように思う。

「そうだなぁ、特におかしいところはなかったけど」
「うーん……」

ぐでぐで。
クラスのやつらがこの様子のユキを見たらどう思うだろうか。
そう思うと少しだけ笑えた。

その翌日から、夏冬コンビの様子が明かにおかしくなりました。
ナツくんはフユのことを避けていて、フユは一切笑ってくれないのです。

みんなが心配して、何があったのかという質問すると、フユは一言引越すんだとだけ告げて黙り込んでしまいました。
それは私にも大きな衝撃で、何も…そう、何も言うことが出来なくなってしまいました。

フユの引越しの前日の放課後、いつもの通りウミくんと教室でのんびりする予定でした。
しかし2人して担任に用事を頼まれてしまい、ようやく教室に行くと…人の気配が。

「私は、ナツのことが好き」

フユの声。
驚愕と安堵と悲しみが一気に渦巻いて、頭が真白になる。

「もう戻れないなら…どうせなら、一歩進んでみませんか?」

ナツくんがフユのことを抱きしめる。

そうして2人はしばらくじっと抱き合っていました。
これは初めて会ったときからわかっていたことです。
私の、私たちの恋心は、叶うはずがないと。

これでフユもナツくんも、幸せなのですから、私たちが悲しむことなどなにもありません。
私たちの大切な人が幸せなのですから。

そう思いウミくんを見ると、ウミくんもとても悲しそうに…それでも嬉しそうに少しだけ、笑いました。


雪の冬と海の夏
(フユのことが大好きでした)(ナツのことが大好きだった)

おまけ
「なぁ、ウミ」
「どうしたナツ?」
「放課後、いつもお前教室にいるよな」
「おう、ユキとな」
「多分今日はフユが放課後教室に残るんじゃないかと思う…悪い、お前ら、外して貰えないか?」
「……誰か先生からの用事、適当に引き受けとくよ。5時過ぎたら他の部活の奴らが戻ってくるか目しれねーから、長引くならその辺りに戻って教室の前見張っといてやろうか」
「ウミ…さんきゅな。俺、いい友達持ったわ」
「まかせろ。俺はお前らを、応援してんだから」



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