Novel






地平線の向こうから昇り始めた太陽の光を目一杯に浴びた雪が宝石の様な輝きを辺りにキラキラと散らばせる。
ここ数十年で例を見ない積雪に見舞われた帝都ザーフィアスが白銀に包まれ朝を迎えた。


早朝にも関わらず、既に白い絨毯の上には幾つか真新しい足跡がぽつぽつと残っている。それらの足跡は市場の方へと続いたり、はたまた一軒の家の前まで続いたりしている。
恐らく朝の早い行商人や仕込みの準備をする人達の物であろう。


市民街を抜け下町へと続く長い坂道を下ると、見慣れている筈が雪の影響で一面真っ白な幻想的にも見える広場が眼前に広がった。


「フレンじゃないか、早いねぇ」
「女将さん、おはようございます」

朝日を反射させる雪に負けず劣らず輝く、太陽色の髪をもった青年ーーフレンと呼ばれた彼は下町唯一の宿屋"箒星"の女将と挨拶をした。

「こんなに朝早くから仕事かい?騎士団ってのも大変だねぇ」
「いえ、今日はお休みを貰ったので下町に帰ってきたんです」
と、フレンはその旨を伝える。

「そうだったのかい、よく見りゃ鎧着込んでいないもんね。それじゃあ"おかえり"だ」
「はい、"ただいま"」

町全体が家族であるような下町ならではのやり取りをし、フレンは騎士団で根詰めだった心が解かれていくのを感じた。

「ユーリの所へ行くんだろう?あの子まだ寝てると思うから起こしてやってくれ、それで起きたら1階に来な。朝ごはん用意して待ってるから!」
「ありがとうございます、楽しみにしています」


約束を交わして女将と別れると、フレンは冷たい息を吐きながらまだ踏まれていない柔らかな雪を期待する子供たちの為になるべく道の脇側をこっそりと通り、目的の場所に向かって歩いていった。




*-------




「ユーリ起きてる?」


箒星の階段を上がった一番手前の部屋のドアの前、目的地へ到着したフレンがノックをして相手の返答を待っていた。

が、如何せん扉の奥からの応答は皆無だ。

「ユーリ?」

もう一度、先より少し強めにノックをしてみると中から僅かに物音と部屋の主の声が聴こえる。

「んー…、あ、いてる…」

"開いている"。

フレンは今し方耳に届いた信じ難い言葉に従って、恐る恐る部屋のドアノブを回してみる。
本来なら途中で鍵に当たって止まる筈のドアノブは滑らかに回り、部屋への進入をあっさりと許した。フレンは溢れでる溜息を隠そうともせずに零し、ドアの奥へと歩を進めた。



「…ワフゥ」

扉をくぐりまずフレンの目に映ったのはこの部屋の主の相棒である犬のラピードだ。
ラピードは耳と尻尾をペタンと垂らしーー人間で例えるならば諦めきった顔だろうーーこちらを見つめる。
きっと相棒を起こそうと奮闘して失敗に終わったのだろう、その様子がフレンの目にありありと浮かんだ。

「おはようラピード、朝からお疲れ様」

そう言い頭を撫でて労ってやるとラピードは気持ちよさそうに目を細めた後、後は任せたと言わんばかりに自分の寝床へと戻り目を瞑った。


続いて部屋の一番奥、今日の最大の目的であり最大の敵へと挑む。
寝台の上にはこんもりとした白い山。
その山、もとい布団をフレンは思い切り引き剥がし中にいる人物ーーユーリに声をかけた。

「ユーリ、ユーリ、朝だよ」
「んん…、あ、さ…?」
「おはよう」
「……、ふれ?」
「そう、僕。」

とろん、と蕩けたアメジスト色の寝惚け眼を必死に擦るユーリはまるで黒猫の様で、フレンはふふ、と笑いながら彼の長いクセの全くない濡羽色の髪を梳く。

「おまえ…騎士団は?」
「今日はお休み。それよりユーリ、部屋の鍵をかけないで寝るなんて一体どう言うつもりなんだい…?」

ユーリが漸く覚醒したきた所でフレンは先程の衝撃な出来事の真意を確かめるべく、ユーリに問うた。

「あー…、鍵?んなモンかけなくたって大丈夫だって女じゃあるめぇし」
「いくら君でも流石に不用心過ぎる、もしもの事があったらどうするんだ」
「あーあー、うるせぇよ朝から小言は勘弁な…」

フレンは彼の為を思って真剣に話しているのにも関わらず、そんな当の本人は我関せずと言う様にまた布団へと逆戻りしてしまった。

「こらユーリ、せめて鍵はかけてくれ。あともう起きてくれ。せっかくの女将さんの朝ごはんが覚めてしまうから」
「んー…まだ寝る…。ってか大体お前だって窓の鍵かけてねぇじゃん…騎士団長様有ろうお方がオレのこと言えねぇだろ」

それどころか、逆にフレンはユーリの布団の中からくぐもった声に痛いところを突かれ返事に詰まる。

「う…、それは僕が知らないうちにユーリが来た時に閉まっていたら勿体無いから」
「そう言う事、オレもお前とおんなじ」
「え…?」
「…オレもお前が来た時に気付かなかったら勿体無いから開けといてんの」

そう言って布団の隙間から僅かに顔を出して話すユーリは耳まで真っ赤にしていた。

「あー!もうこの話は終わり!ほらフレン、寝るぞ」

寝台の端に寄ってユーリは1人分のスペースを作りそこをボフボフと叩きフレンを促す。

「寝るぞ、って…」

フレンはそれの意味が分からない訳では無いが、女将さんの朝食の事もあり逡巡する。
しかしその一瞬の迷いさえも許さないかの様にユーリはフレンの腕を勢い良く引っ張り布団の中へと豪快に招き入れた。

「休みなんだろ…?だったらもうちょいゆっくりしようぜ」
「はぁ…、もう仕方が無いなユーリは。ちゃんと後で責任取ってね」
「はいはい…」

話しているうちに段々と睡魔が再び襲って来たのかユーリの目蓋は殆ど閉じかけている。

「まったく…相変わらずだな」
「うっ、せ…。お前と寝んの…やっぱ、安心する…んだよ」
「…っ、そうやってキミは無意識に僕をいつも煽って…」
「……」
「…キミは本当に気ままな猫みたいだね。…おやすみ、ユーリ」


すっかり夢の中へと旅立ってしまった気ままな恋人の起きている時より幾分幼い寝顔を見て、
フレンはその頬にフワリとキスをすると、心の中で女将さんへの謝罪をし、彼もまた夢の中へと落ちていった。










(キミが隣にいるだけで、世界はこんなにもあたたかい)





おおぉ…、何ヶ月か振りに文字書いた…。
フォロワー様への贈り物として書いたんだけどただいつも通りグタグタイチャイチャしているだけの文になりました…。

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