Novel
時は未の刻、
暖かい陽射しが窓から入り込む昼食後の穏やかなアフタヌーンティー
先程青年ことユーリが淹れてくれたレモンティーを飲み、カロルは自然と肩の力が緩むのを感じる
キッチンからはカチャカチャと食器のあたる小気味よい音と共に、ユーリとパティの談話が聴こえてくる。
窓の方に眼を向けると、ラピードが日向で昼寝をしている。
「優雅だなぁ…」
そう、これこそが自分が望んだ仲間の関係、ギルドの雰囲気。
今度はリビングのソファの方を見る
テーブルではエステル、リタ、ジュディスがガールズトークに花を咲かせて…い…
何かがおかしい
何がおかしいかと言うと、ソファの前にテーブルなんてモノを置いた覚えがないことだ
それだと言うのにあの3人はティーカップをテーブル(?)の上に置いて話している
いや、話しているというよりテーブルに尋問している
「レ、レイヴン…?」
テーブルもといレイヴンに話し掛けてみると、少年助けて〜と縋られたがどうする事も出来ない、
今の状態の女子3人には星喰みをも討ち滅ぼすパワーがあるのでは、と言うほどのドスいオーラが漂っていたからだ
「さあレイヴン…?答えてください、どうしと先程買い出しから帰ってきたユーリはあんなに機嫌が良かったのですが、貢物ですか?卑怯ですね、一体何をあげたんですか答えない潰しますよ。」
「じょ、嬢ちゃんキャ…、キャラちがっ…モーニングスター閉、まって…」
確かに今日のユーリはいつもより機嫌がよかった。
お昼ご飯のオムライスも中にチーズが入ってたし、ケチャップアートも凝っていたし。
「アイツが喜びそうな事なんて、甘味が武器か防具くらいよね」
「差し詰めあれかしら、今ダングレストで話題沸騰中の"天を射るマカロンタワー"、それとも"黄昏のカスタードシュー"、"黒獅子のザッハトルテ"、"大魔王のデビルチョコクッキー"」
最後の2つが明らか誰をモチーフにしたかが分かってしまって辛い。
「おっさんこの前皆に絞り取られたからお金無いの!金欠!金欠!そんな高価なもの買えないわよ!」
「高価なものが買えない、って事は高価ではないもの、を買ってあげたのですね…?」
ギクッ。
レイヴンが墓穴を掘った、
さよならレイヴン、安らかに。
「決定ね、もぎましょ」
「えぇ」
「今切れ味の良さそうな得物持ってきますね」
レイヴンの断末魔が耳に届くが、聞こえないふりをしてユーリの元へと逃げる。
「あいつら何やってんだ…?騒がしいな…お、カロルどうした?あいつら何やってんだ?」
「あ、うん皆で遊んでたっぽいよ、うん。
ところでさ、さっきレイヴンに何買って貰ったの?」
「なにぃ!?おっさんウチの旦那に手を出すとは命知らずな!!こはウチがシャチの様な鋭い一撃をお見舞いしてやるのじゃ!」
「言ってろ…、何でおっさんに何か買って貰ったって知ってんだ?オレの顔にでも書いてあるか?」
先程あちらで聞きました。
とは言えず
「ん〜、なんとなく?」
と曖昧に答えたら、意外にもユーリはすんなり答えてくれた
「生クリームだよ」
見るもの全て魅了する屈託無い笑顔で言われた。
本人はきっと隠せてると思っているだろうが、見事に隠せていない。
それよりも、だ
「な、まくりーむ?」
「おう」
なまくりーむ、即ち生クリーム。
生クリームならいつも買ってる品物だ。
それを態々、また何故喜んでいるのか分からずにいると再度ユーリが口を開いた
「いつもはな?脂肪分38%のヤツなんだけどよ、今回それが売り切れててそしたらおっさんが43%の高いヤツ買ってくれたんだぜ!!」
これでおっさんにクレープ作って貰うんだ
と最上級の笑顔で言われてしまえばもう此方は何も言えない。
その笑顔が撒き散らす光が黄泉の国行きのレイヴンに届いたのか何時の間にかレイヴンは復活していた、鼻から血を流して。
「ユーリの為ならいくらっっでも作るわ!!!!!おっさんの愛をこめグヘェッッッッムバスッッッ!!!?」
「ユーリ、これからリタ達と天を射る重星の隣にできたケーキバイキング屋さん行きません?」
「お、いいぜ」
「では早速行くのじゃ!」
「べ、別にアタシはエステルが行くって言うから…」
「ほらリタ、行きましょう」
手にはそれぞれの魔装具を持った一仕事終えた女性陣がユーリを連れて、楽しそうに姿を消した。
「おっさーん、帰ってきたらクレープ宜しくな」
最後にユーリの声が聞こえたが、この満身創痍レイヴンに届いたかどうかは定かではない
床に赤い文字で"まそうぐこわい"と書かれてあるのが辛うじて読み取れた
「女の人って…、こわいね」
「クゥン」
何も無かった事にしてラピードとお昼寝を決め込むカロルであった。
おっさんはおっさん。
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