Novel



ψ Ursae Majoris(プサイ・ウルサェ マーイョリス)
・笑顔の裏の冷酷さ









「そろそろじっとしてるのも疲れる頃でしょーよ、お隣さん。」


目、覚めてるんじゃないの?




初めに声を掛けたのは気まぐれだった。



看守との会話という暇潰しもなくなり手持ち無沙汰だったから、

ただなんとなく隣の牢に数刻程前に入れられた人物に話しかけてみた。




「そういう嘘、自分で考えんのか。

おっさん、暇だな。」


暗くて狭くて湿気が多くて、居るだけで気分が滅入る様な牢屋に
芯の通った、低い若者の声が反響した。



「おっさんはヒドイな、おっさん傷つよ。

それにウソって訳じゃないのよ……ーー」



相手の返しに適当に胡散臭いキャラを演じて適当に会話をする、




話を聞いた所、隣の人間は下町の住民だそうで
水道魔導器の魔核を盗んだ泥棒を追って運悪く貴族の騎士に見つかり牢屋入りしたらしい、




カンカン…ッ





と言うところで牢屋に鎧の音が響く、どうやら時間のようだった。




「出ろ」

「いい所だったんですがねぇ」

「早くしろ」


キイィ…と鉄格子の扉が開き、牢から解放される。



伸びをしながら窮屈な牢の扉を出て出口に向かい、隣の人物の顔ちらりと見たその時。





自分の左胸に埋め込まれた硬質な心臓が不規則に、激しく早鐘を撞いた。


「……ッ。」




黒の長髪、強い意志のこもった大きな瞳。





"道具"として生きる前の自分の記憶が一気に甦る。



(キャナリ…)



「…おっと」


「騎士団長直々なんて、おっさん、何者だよ」


「……女神像の下…」




その青年の前でワザとらしく躓き、隠し通路の場所を教えて牢の鍵を投げ入れた。




…その青年が過去の記憶の中の人に似ていたからか、

それともただの気まぐれだったのか…。








袖振り合うも他生の縁と言うのが当てはまるのか、




それから騎士団長の命令を受けた"隊長主席"としてその青年や彼の仲間達の前に立ち、


ギルドの首領の右腕である"道化"として、
彼等と共に行動をした。









「やれやれ、おっさんと一緒に旅することになるとはね」

「なぁに?嫌なわけ〜?」

「少なくとも好んではいないな」



夜のトリム港に響く2つの声。




「まぁ大丈夫、大丈夫〜。大人しくしてるってぇ」


「ま、しばらくは一緒ってことで残念だけど、
よろしくな?おっさん」




青年と2.3言会話をし、その場を離れる。


「…おっさんには眩しいわ」


ユーリをはじめとする彼等には、
それぞれが目指すものを持っており、

何もかもを失ってただ空虚な"仮面"を被って役割を演じている自分にはただひたすらに眩しかった。










このまま"レイヴン"として彼等とずっと旅を続けられたらーー



何かが変わっていたかもしれなかった。





けれどそんなものは
絵空事に変わりはなくて。





アレクセイの命令により、バクティオン神殿の最下層部で剣を構えて彼らが来るのを待つ。




「…死ぬ気で頑張るのは生きてるやつの特権だわな…死人にゃ信念も覚悟も…」




そう、死人には何も残されちゃいない。


ただ道具の管理者に使われ、
殺せと命じられれば殺し、死ねと命じられれたならば死ぬまで。




「ウゥ〜…、ワンワンッ!!」

「レイヴン!?」





差し出された手を掴まなかった、
掴めなかった自分。



何もないからっぽの自分が彼の手を握るにはあまりにも価値が無さすぎたから。



せめて彼の手で断罪されて終わりたかった。







「…帝国騎士団 隊長主席、シュヴァーン・オルトレイン、



…参る」




「この……、バッカやろうが!!!」






願わくば、彼の路に幸があらんことを。










笑顔の裏の冷酷さ


(ーーーその更に裏に隠された、本当の意味)













おっさん。
おっさんは深過ぎる、だから好き。
ダミュもシュヴァもレイヴンも全部でおっさん。

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