Novel








ドンドン


「せいねーん?朝よー?」



ドンドン




レイヴンが叩いているのはヘリオードの宿屋の扉。


凛々の明星に来た依頼として、
ヘリオード近くに増殖している魔物の討伐をすべくやって来ていたのだが、

あらかた片付いた時突如として雷を伴う大雨が降り始め
一行はヘリオードの宿屋に避難し一夜を明かしたのだった。





そして夜が明け迎えた朝、


いつもであれば1番に目覚め一行の朝食を作っている母親的存在であるユーリが
今日はいつまで経っても起きて来ない。





皆が心配し、様子見にと白羽の矢が立ったのはレイヴンであった。




そしてその命を賜ったレイヴンは
こうしてユーリの居るはずである部屋のドアを叩いていた。




そして話は冒頭に戻る






「せいねーん?いるわよねー?」




いくらノックをしても返事のない扉の向こう側。


まさか窓から脱出をした訳でも無かろうし、
そもそもそんな事をする利点がユーリにも無い筈だ。





レイヴンが宿屋の主人からマスターキーを借りてこようかと思ったその時、
ギィ…と扉が開いて中からラピードが出てきた。





「あ、わんこ!お前さんの相棒は?」


そう尋ねると、



「ワフゥ…」


と心配と若干の呆れを孕んだ瞳でレイヴンを見つめ、
耳と尻尾をぺしょんとしながら羽織を引っ張りドアの前まで連れて来て、
自分は階段を降りていった。




ラピードに促されたままレイヴンが部屋に入ると、
目に入ったのはベッドの上でこんもりとした布団の塊。





その塊の中からケホッ…と小さな咳の音がする。



まさかとは思いつつも嫌な予感がし、
やや早足で塊に近づき布団を捲ると、

果たして其処には顔を真っ赤にした明らかに風邪をひいたユーリが蹲っていた。




「せいね〜ん…、大丈夫?」


「おっ、さ、ゲホッ…、な、んで…?」


「奴さんの相棒がドア開けて教えてくれたんよ、あのこホント賢いわね」


「らぴー、ど…あいつ…ケホッ…」


「あーあー、無理して喋りなさんな、
どーして知らせなかったのよまったく〜そんな顔真っ赤にして〜


どーせ寝てれば治るーとか、
少年たちに心配かけたくないーとかでしょーけど〜、

主人に氷とか濡れたタオル貰ってくるから大人しくしててちょーだいね?」



「わり…」




そう言うとレイヴンは顔にかかっていたユーリの髪を優しい手つきで除けて、階段をパタパタと降りていった。




今まで張っていた気がレイヴンが来てくれたことでフッと抜けたのか瞼に重みを感じ、

ユーリはその重力に逆らわずゆっくりと微睡みの中へと落ちていった。


















額に感じる冷たい感覚でユーリの意識が浮上を始める。

「………、ん」


「お、せーねん起きた?おそよう〜」


「あれ…、おれ…ねてた?」


「そりゃあもうグッスリと。

戻って来たらもう既に寝てたわよ、
疲れたまってる上に昨日雨に打たれたんだからそりゃあ風邪も引くわよ」




レイヴンは小言を言いながらも心配した手付きでユーリの額に手を乗せた。


「ん、さっきより下がったわね。
プリンなら食べられそう?」






「んーー…、くう」






風邪をひいたからなのか何時もより少し幼い表情と口調のユーリに
レイヴンは内心ドキドキしっぱなしで気が気じゃなかった。




(な、なに…この子…!?
可愛すぎぃぃぃぃぃ!!!!!)



けれども病人に手を出すのは流石に気が引けるので、
表面上では平静を装って見せた。





「は、はい〜、ど、うぞ〜プリンよ〜」




平静を装えていたかは定かではないが。






「さんきゅ」


と言って笑った顔がいつもの皮肉気な笑みを全く含まない邪気の無い笑みだったので、
レイヴンは危うくプリンを落としそうになった。




「あ、あーーうーー、うん、そうだ!青年!食べさせてあげようか!プリン!」




これでユーリにバカかおっさん、と罵ってもらい冷静になろう、と言う考えからなのか、

それともただ慌てて何を言ったら良いのか分からなかったからなのか、

とりあえずレイヴンは気がついたらそんなことを口走っていた。




「おっさん…」




(よし…、これでいつもみたいにバカにしてちょーだい、そしたら…)




「よろしく」



「やっぱり〜?流石に風邪をひいててもそんな甘い展開はねぇ〜恥ずかし、ってぇぇえええええぇぇ!!!??」




「おっさんが言ったんだろ?」



そう言いながら小首を傾げるユーリ。



(おっさんもう…今日が命日かも….)















何とかなけなしの理性を保ちながらユーリにプリンを食べさせたレイヴンは一息つく。



「はぁ…、んじゃせーねん、おくすりのんでお寝んねしなさい〜」




と言いながら先程宿屋の主人から貰った風邪薬を手渡そうとした、




がそれはユーリがこちらに背を向けて布団に潜り込んでしまった為叶わなかった。






「…おやすみ」





まさか、



いつもパーティの斬り込み隊長を務め、恐れを知らず何処かしこにも突っ込んで行くこの青年が、





「せーねん、おくすりニガテなの?」


「……、そんなことないぞ、今日はたまたまその薬の気分じゃないだけだ。」






そのまさかだった、




薬が苦手でした。










(か、可愛い……)




そうは思うものの、薬を飲まなければ治るものを治らない。




そのまま寝ようとするユーリに声を掛ける、


「ちょっと〜ユーリちゃん、飲んでよぉ〜治らないわよ?」




「気合だ…ケホッ」




咳をしながら体育会系の様なコメントをしても何の説得力もない。




「おらおっさん…、
もう大丈夫だし風邪感染っから出てけっ…」




咳込み、やや涙目になりながらも自分のことより他人のことを気遣うユーリを見てしまったレイヴンは
このままはいそーですかお大事にー、


なんて言って出て行くなんて事は出来る筈もなく。



更に言うとこの目の前の可愛い生き物に何もせずにUターン出来る筈もなく。





(据え膳食わぬは男の恥ィ!!!)







「ユーリ」


「おっさ、んぅっ!? 」




ユーリは平時とは少し違う、
帝国騎士団対象主席を彷彿させるような真面目な低い声が聞こえたかと思ったのも束の間口付けられた。





「んっ…、んぅ…、っふ…」




力の入らない手でレイヴンの背中をバシバシと叩いたが

止めるどころか更に深く侵入してきて、




「んっ…?、んぅ…っ!?」



と、その時レイヴンの舌とは違う何か硬いモノが口内に入り込み、喉の奥へとレイヴンによって押し込まれる。



やがて舌が離れ、ぼやけた思考の中でそれが何が何だか分からず、

溢れそうになる唾液と共にそれを飲み下すと目の前のレイヴンに頭を撫でられた。




「よくお薬飲めました〜、偉い偉い」




「ゲホッ…、…っ、は…?」




まさかとは思ったがレイヴンに口移しで薬を飲まされた。





恥ずかしかが込み上げる中で
薬と分かった途端、あの嫌な苦味が口に広がった。






「っは……、ゲホッ…、おいっ、おっさん…っケホッ」




「はいは〜い、続きは青年の風邪が治ったら、ね?ご馳走様でした〜♪」






「…くそっ、感染っても知らねぇ、ぞっ!

ぜってぇ看病なんかゲホッ、しねぇ、からなっ…」





風邪による咳と言うより先程の行為による咳込みで悪態を吐くユーリを見てレイヴンの顔が緩む。






「おっさんはバカだから風邪ひかないわよ〜ん、

おやすみ、ユーリ」






「……おぼえとけっ…」









+=












(ぜいね、っん…ゲホッ、感染っだ…しかも…せいね、より…っ、重症な気が…ゲホッ)


(オレは言ったからな、看病なんかしねぇって)


(ひどいわぁ、ユーリ、ゲホゲホっ…)


(精々温かくして寝ていやがれ、悶え休んでろ!!!)

(うぅ…… )











定番、定番です。
ユーリは薬が苦手だとかわいい。願望。


戻る





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -