Novel



θ Bootis (シータ・ボーティス)
・理想を見つめる無私の精神








優しい太陽の光が、爽やかな潮風が、世界を照らし、巡っていく。



エフミドの丘を上がり、目的の場所に辿り着き辺りを見回し、腰を下ろす。


一面に広がる蒼い海。
この蒼を彼は好きだと言った。

金色の輝きを放つ太陽。
世界を導いてくれる金色が好きだと、彼は言った。



理由を尋ねると、お前の瞳と髪の色と同じだからだ、と少し照れて笑って言ってくれた。



そんなことを、ふと思い出す。




いつもの鎧とは違うラフな格好で、
左手首に付けた今は只の装飾品と化した金色の元武醒魔導器を見て一人呟く。




「…世界は変わったよ」



そう言って立ち上がり、
嘗て世界の生死をかけて闘った銀色の髪の男の友人である者の小さな墓の隣にたてた、
同じくらいの大きさの墓とそこに立て掛けてある1本の刀に向かって、
紫色の小さな花を手向け、その前にまた座る。





応えは、ない。


なくて当たり前な筈なのに、いつも此処へ来る度少し期待をしてしまう自分に苦笑する。








世界は変わった。

魔導器に頼る世界に終わりを告げて早2年。


騎士団とギルドが手を組み混合部隊を作って街を守り、
人々が平等に暮らせるように評議会に市民議会を取り入れ、
マナを使った新しい魔導器の開発も進み既にいくつかは実用化され始めている。



世界は新たな1歩を踏み出した。
人々が自らの力で生きようとしている。
自分の、彼の、望んだ未来にまた1歩近づいた。




自分が騎士団にいる理由、嘗て彼と誓った約束。
それが果たせているのだろうか、と思う時がある。



だが自分の出来る全てをこの2年間やって来て、そして今を築き上げた。














彼がこの世から姿を消した理由は実に彼らしい、
と今やこの世界に欠かせない重要なギルドとなった凛々の明星の首領に聞いた時思った。


魔導器を失い世界が混乱している中、
魔物が簡単に街に侵入して来てしまうようになり、
魔物を退治すべく闘っていた時のことだ。


逃げ遅れた小さな子供が今にも魔物に襲われそうになっている所を彼は助けた。



その名の通り自分の身を犠牲にして。




子供を庇い、背中に致命傷を負った彼は最期に武醒魔導器を手首から外し、
ごめんな。と言って笑って息を引き取ったそうだ。



泣いて泣いて目を腫らして、顔を赤くしながら自分に彼の魔導器を託しに来た小さな少年は、
今や自分達の身長を抜き、立派なユニオンの重鎮として今日も赤い瞳を持つクリティア族の彼女と彼女の相棒と世界を駆け回っている。




もう随分と昔の出来事を思い出しながら、
懐から1枚の封筒を取りだして開けて中身を取り出す。



彼の借りていた部屋を片付けている時、
必要最低限の物しかない彼の部屋の
机の引き出しの中に1枚の白い封筒が入っていて、「フレンへ」と宛名が記されていた。

そこには『約束、忘れるなよ?』とたった一言、それだけが細く綺麗な文字で書かれていた。



その手紙を暫く見つめ、また懐へしまう。


「…君は狡いよ」



彼と会って話したい事が沢山ある。


僕らの相棒に子供が出来てギルドは引退したけれど偶に首領を手伝っていること、

小さな首領が逞しくなってクリティアの彼女と今もギルドをやっていること、

天才少女が新しい魔導器を発明したこと、

桃色の髪の少女が副帝となり世界を支えていること、

三つ編みの金髪少女は今日も元気に海を巡っていること、

表舞台に中々出ようとしなかった彼がギルドと騎士団の混合部隊の隊長を務めてくれていること、

そんな仲間達のことや、他愛のない話を。



彼の意志の強い紫煙の瞳、
傷みを知ることのない漆黒の流れるような髪、剣士なのに綺麗な細い手、低く澄んだ彼の声。


目を瞑ると今でもすぐ側に感じる。


しかし目を開いても其処に彼はいなかった。



そして最後にいつも思うのは、




彼と同じ場所へ行きたい、
そればかり。






でもそんな想いも彼からのたった一言の手紙により掻き消される。
きっと彼は自分がいなくなったら僕がそう思うと分かっていたからこの手紙を残していたのだろう。


忘れるな、そんなこと言われたら頑張るしかないじゃないか。



僕が役目を果たし、君のもとへ行く時に、胸を張って、約束、果たしたよ。って言えるように。

君と、笑って話せるように。




忘れない、忘れるわけがない、
君と僕の、2人だけの、約束。




「…よし。」

何時の間にか時が経ち、太陽もやや傾き始めてきていた。


「そろそろ、行くね。」
そう言いながら立ち上がり、帰ろうと背を向けた時、一陣の強い風が吹き、丘の木々を揺らした。


その風と共に耳元で囁くような声が聞こえ、
思わず振り返った。

しかしそこには無機質な、でも何処か優しい石があるだけで。


一度柔らかく微笑んで

「ユーリ、また来るよ。」



と言い今度こそ去ろうとしたら、トンッと背中を押される感覚がして。

気がつけば自分の頬には目から溢れ出した涙が流れていて。





『振り返らず、前だけを見て進め、お前の背中くらい俺が守ってやる。』

昔言ってくれた彼の言葉を思い出す、思い出しながら涙を拭って呟く。

「任せたよ、ユーリ。」




そう言ったら不思議と、彼が隣でおう、と笑っているような気がした。



でもきっとこれは気の所為じゃないのだろう?

だって彼が約束を破るなんて考えられない。





そんな事を考えていると、
手首にはめている彼の魔導器がほんの少し熱を持った気がした。









誰かが言った、自分は光で彼は影だと。


けれど僕は彼が僕の唯一の光だと思う。


迷った時、悩んだ時、どんな時も自分を光の方へと引っ張ってくれる、そう今も。







今日からまた、頑張ろう。
土産話を持って、再び会いに行くその日まで。













死ネタでした。
ユーリがいなくなって精神が弱くなるフレン、好きです。
その逆もまた然りです。

今回は壊れてないけど、今度壊れるフレン、もしくはユーリも書きたいです。

この2人はどこへ行ってもずっと一緒です、ずっしょです(適当)

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