ルパン三世からの置き土産

『師匠、カリオストロで若い女の子引っかけたって話ほんとですか?』
「バッ、おまっ、その話誰から―――次元!!!」





私が師匠と仰ぐルパン三世と出会ったのは、青二才の若造だったと遠い目をする師匠が家から数キロ離れた銀行で銀行強盗を行った日だった。ルパン三世といえば当時イギリスでも有名な大泥棒で、毎回予告のカードが発表されるごとに世界が騒いでいた。
その日の師匠はちょっとしたスランプのようで。銭形という刑事に追われていた彼を、ちょっとした出来心で手助けしたのがきっかけだ。私はスクールで様々な実験や研究を行う生徒だった。あの時は確か、昔作った遠隔操作アプリがどの程度動くのかを確かめる実験を行ったのだ。

「あん時はびっくりしたよなぁ、次元?追っかけまわされてこっちは困ってるっつーのに、勝手に携帯が鳴りだすんだもん。音で気づかれたらたまんねぇっ、てことで携帯を開いたわけ」
「神妙な顔してルパンが止まったから、こりゃなんかあったなって俺らも止まったわけだ」
「うむ」

実に簡単なソフトだった。アプリをインストールさせた媒体からGPSを自動で発信させ、そこから目的地までの有効なルートを即演算するというものだ。
幸いにも私は一人暮らし。
目的地を自宅に設定した私は、たまにネットで呟かれるルパン三世一味目撃の情報を眺め、疑いながらも着実にこちらへやってくる師匠を待ったわけだ。
これが記念すべき、師匠へ捧げた便利グッズの処女作となる。

『……とはいえ師匠、やっぱり無理がありましたよこれは。普通の建物ならともかく、FBIの本部内は……』
「俺はかわいーい愛弟子の腕を信じてやったの〜」
「よく言うぜ」
『頭の切れる人がいれば、こんな装置あんまり意味がありません。ましてやこの人に今日下見に来るってバレてたんじゃ、こんなのは…』

手に持っていた処女作の再開発バージョンを五右衛門先生に投げ渡せば、あっという間に真っ二つ。師匠はあーーー!ともったいなさげな声を出した。

「まだ使えたのに!」
『失敗作を残すのは研究者として恥です』
「だっ、ばっ……でも捕まえたじゃん!?ルートは読まれたけど俺たちの見事な連係プレーで捕獲できたじゃん!」
「これが誇りというものだ、ルパン。理解しろ」
「そりゃないわ……」

折角苦労して捕まえたのにーと、問題の人物の隣へとしゃがみこむ師匠。
たった一人、このルートを読んで待ち伏せ、師匠の顔面すれすれに弾丸を打ち込んできた人物。あらかじめ調べておいた資料はすべて頭の中に。その腕の良さと顔を見れば、すぐに誰だかわかった。

『FBIが誇る狙撃手。次元先生がいなかったら、師匠の顔は吹っ飛んでたのでは?』
「……ホ〜。俺の存在はまだ秘匿扱いのはずだが?」
『秘匿って、あのファイアウォールですか?あのくらいのもの、イギリスのMI6に比べればどうってことありませんでしたよ』
「と、言うことは君が調べたのか。その若さで」
「俺の愛弟子と同い年くらいでなーに言ってんの」
『やめてください師匠。日系人は確かに童顔ですけど、流石にまだ私の方が若いです』

暗に勝手に年増にしないでくれと言うと、FBIの狙撃手はふっと笑った。鼻につくが顔がいい。
その余裕しゃくしゃくな様子を見ると、師匠はスンと表情を消して立ち上がった。

「随分と余裕だなぁ、お前。捕まってんのに」
「ルパン三世は無益な殺生はしない。話を聞いた限り、今回はただの下見だろう。俺には精々、悪戯をして帰る程度か」
「図星だな、ルパン」
「どんな悪戯をしてくれるんだ?」
「このクソガキ……」

恐らくその人はもうガキというような年齢ではない。そう心の中で思いながら、私は背負ったリュックから簡単なおもちゃを取り出した。

「……爆弾?」
『本物でしょうか、偽物でしょうか。ちょっとしたお遊びで作ったやつなんですけど、せっかくなので今回はこれで』
「おいこれ……」
「いーから早く巻いちゃいましょ。余計なのが来る前に」

物を見て眉をしかめた次元先生を差し置き、師匠は渡したおもちゃを彼の身体へと巻き付ける。はたから見れば、プラスチック爆弾を人質に巻き付ける犯罪者だ。
……犯罪者には違いないのだが。
 ・・・
「またな。FBIの天才スナイパー」

師匠の言葉を最後に、聞こえ始めた足音から逃げるようにして事前に考案しておいたルートをたどってアジトへと戻った。





「シュウ!」
「待てジョディ!近づくな!」
「爆弾…!?」

狼狽えるFBIたち。爆発物処理班を。そう呼ぶサインを出そうとしたところで、それはパチパチと、爆弾にしてはちゃちな音を立てて火を出した。

「Why!?」

同時に破裂音。そして巻き上がる紙吹雪に、デフォルメされたルパン三世のイラスト。イタリア語で、若き天才に免じて今日は帰るぜというメッセージ入りだ。
そのメッセージがボスの手に行き渡ったと同時に、FBIの天才狙撃手―――赤井秀一はぼそりと呟いた。

「線香花火…?」

まさかあのルパン三世が己の信念を曲げるはずはない。それに、あの女はこれをおもちゃだと言っていた。
自分にそう言い聞かせながらも、あまりの爆弾の精巧さに、内心では少しの焦りを感じていた。もしかしたらこれは本当に爆弾なのではないか。この量で爆発なんてされてみろ、身体は木っ端みじんだ。

しかしその正体は線香花火とは。

してやられたと赤井は笑う。線香花火の火は熱くなく、おそらく改良されたものだろう。……あの、ルパン三世の愛弟子によって。

「またな、か。……確かにこれは、お返しをしないとだな……愛弟子さん」

『うわやっぱり気づいてやがる』

思わずいつもの口調が崩れる。FBI内の監視カメラをハッキングしてその様子を見守っていたその本人は、近い将来彼に再会することを知らないまま、背筋に寒気を感じていた。
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