荒れ果てホテル。
存在は知っていたが本当に荒れ果てている。入口も二つあるようだ。これではリウトも来たとしても困るだろう。
来れたら、ね。
「ほら、歩くんだよ」
「マウ……」
不安そうに歩くハリマロンは辺りをキョロキョロと見回している。
「この奥にリウトがいるよ」
「ハリ!?」
自分が連れ去られた状態がわかっていないのだろうか。思いつきで言ったことだが成立するならいい。
「……行っておいで」
「ハリ〜」
前も言ったが嫌がらせだ。リウトに他のポケモンがいたとしてもメイスイから出てなかったでだろう彼がここまで来るとは思えない。
そうやっていつまでも来ないお迎えを待つんだな。
「途中で野生ポケモンに襲われて瀕死になるのが関の山だけ、ど」
得意げに振り返ったところでそれは驚きの感情に染まった。
「ライオ先輩……!?」
嗚呼、大好きな人!
理解の前に心が騒いだ。だめだ。どうしたってこの人が好きで仕方がない。
でもきっと理由は。
「ハリマロンをどこにやった」
ほらね。
「勝手に行っちゃいました。上着どうしたんですか? ま、大体想像はつきますけど」
胸倉を掴まれた。
「こんなことしてて、ハリマロンが襲われてもいいんですか?」
「チッ」
ライオは乱暴にアリマを放した。
「ライオ先輩」
「なんだよッ」
もっと見て。もっと俺を見て。
“今”だけは“憎悪”で俺を見て。
ライオの二つの南の島の海のような目が確かに自分を捉えている。それだけで今のアリマは満たされていた。
……なのに。
「もういい。ハリマロンっ!! 何処だ!」
そっちに行ってしまうんだね。
「……これっきりでやめようと思ったけど」
遠くに行ってしまったアリマの声は多分ライオに聞こえていない。
アリマはライオが好きで、ライオはアリマが好きで。
じゃあ、リウトは?
「確認しなきゃいけないなぁ」
それともう一つ、準備しなきゃいけないものがある。
「知ってた? 俺諦め悪いんスよ」
あんたもそうでしょ? 好きな男を追ってここまで来た。
アリマはそう言って、踵を返した。
あれから三日、リウトは家で考えていた。
いつの間にか被せられていたライオの上着を抱えながら。
久しぶりに会った幼馴染は背も伸びて、横顔も大人びて、抱きしめてくれた力も強かった。
「ライオ、俺のせいでメイスイに帰ってこなかったんだろうな」
それを考えるととても申し訳なかった。そんな幼馴染を煙たがっていた自分も。
「最低だな……」
その時、ライブキャスターが着信した。起動してみると映ったのは。
「ライオ!!」
『ハリマロン、いた』
「本当」
『今から、帰る』
「歩いて行ったの?」
『飛行ポケモン、いないから』
「……」
『帰る』
「あっ」
ライブキャスターは切れてしまった。
「なんでライオはここまでしてくれるんだろう……」
ライオを嫌い続けた自分に。
考えても答えは出なかった。
【190119】
荒れてきたぞぉ!!