今日は特に何もない平凡な1日だった。

いつも通り生徒に授業をして、放課後は受け持ってるテニス部の練習をみて、それから家に帰って晩御飯を食べて、寝る前に少しお酒を飲んで寝るつもりだった。


……そう。つもり、だった。
晩飯を食べて、一息つこうとしていた俺のもとに届いたのは一通のメール。
送り主はなんとテニス部部長、白石蔵ノ介。

内容は簡潔に一文、「玄関の戸開けてみ」だけだった。


(短すぎや…。ちゅーかなんとなく予想できとるんやけど)


教え子のありきたり過ぎる演出になんとなくあきれてしまったことは自分だけの胸の中に秘め、俺はひんやりとしている廊下を通って玄関の戸を思いっきり開いた。

   ゴンッ


「痛っ」


「あっ、そこに居ったんか。すまん、すまん」


わざとらしく驚いたような演技をすれば、白石は少し眉間に皺を寄せて俺を一睨みした。
白石が玄関の扉に寄りかかっているのはわかっていた。
だから戸を思いっきり開いたのだ。


「ちゅーか、なんで戸に寄りかかっとんねん。白石が開けろ言うたんやで?こうなることはわかっとったやろ?」


少し笑ってやった。そして白石に中に入るように勧めば、


「立ってるのがだるかっただけや。それにオサムちゃん、俺が玄関にいること知っとったくせにわざと思いっきり戸を開くなんて性格悪いんやな」


白石は遠慮することなく玄関に入り、靴をぬぎながら俺に嫌みを1つ吐き捨て、ひとりで居間に向かっていった。


(今日は少しご機嫌斜めみたいやな…)


居間に入るなり「オサムちゃん、酒よこし」なんて言われた。
「未成年の飲酒はあかんで」と言いながらも酎ハイを用意している自分がいる。


「ぶどうのしかなかってん。それでもええか?」


「飲めるならなんでもええわ」


そういうと白石は俺の手から酎ハイを奪って半分くらいまで一気に飲み干した。
俺はというと、きっと酔いつぶれてしまうであろう白石を車で送っていくために飲むのをやめた。

そこからは終始無言。

白石は喋る間も惜しむようにずーっと酎ハイを飲んでいる。
そんな沈黙に耐えられなくなった俺は白石に話しかけた。


「今日はどないしたん?先生ん家に来るなんて珍しいやんか」


「………俺も色々あるんやで。…ちゅーかここ暑うない…?」


そういうと白石は一枚ずつ服を脱ぎ始めた。


「ちょお、なにしてん!?自分風邪引く……」


少しだけ走った鈍い痛み。
思わず小さな唸り声をあげてしまった。

目の前には目がトロン、としている白石の顔と、真っ白な天井。


状況判断に頭が追いつかない。


「オサムちゃん」
なんだかわからないが名前を呼ばれただけで心臓が早くなった。


「な、どないしたん……?こんな冗談、おもろないで…?」


そういうと白石はにっこりと笑った。

口の端はつり上がっているのに、目は完全に笑っていない。


(これは結構やばいで…)


自分の顔がひきつっていくのがわかる。
生徒と教師の恋愛なんてシャレにならない。
そして、それが同性同士ならなおさら。


「し、白石…?ちょお、落ち着こうや…」


「…本当は、」


俺の上に馬乗りになってずっとにっこりしていた白石がいきなり口を開いた。


「こうなることわかっとったんやろ?俺がなんのためにこの寒空の下、わざわざオサムちゃん家まで来たのか、本当は知っとったくせに」


まるで酔っぱらってなんかいないような口調で白石は淡々と喋った。


「俺、ずっとずっとオサムちゃんとヤりたくてしょーがなかったんや。いつ襲ったろうかな、とか考えとったんやで?でもなかなかチャンスがなかってん。しゃーないからこうやって俺から出向いたんや」
白石の笑みがニヒルなものに変わった。


「やから、オサムちゃん。俺と気持ちようなろうな…?」

ゆっくりと、唇と唇が、重なった。


(俺の貞操さようなら。…こうゆう場合は処女というた方が正解なんやろか。)


床に少しこぼれたお酒と、
その辺に投げ捨てられた二人分の衣類に埋もれながら、
めくるめく快楽世界に足を踏み入れるまで、後少し。

 
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