銀土/死ネタ

(さよなら世界)



もう、頑張ったよな。嫌になるほどの命を奪って来たよな。もう、目を閉じてもいいかな。

ドクドクと、命が流れ出す音がする。そっと腹部に手を当てると、手が命の色に染まった。
笑おうとしたが口から出たのは赤い血だけだった。
誰かが呼ぶ声が聞こえるけど、もう何も聞こえない。近藤さんも、総悟もいない。仲間ももう沢山死んだ。多分、いや、この戦は負け戦になるだろう。最悪こちらは全滅だ。


「………ぐ、」


もう、俺達は十分頑張ったよな。だから、もう向こうに行ってもいいよな。近藤さん達がいる、向こう側へ。


「迎えいれてくれよ、近藤さん」


そっと目を閉じる前、微かに銀色が思い浮かんだ。その銀色は、確かに俺を見ていた。
ああ、心残りはお前だけだ。頬を涙が伝うのが分かった。
俺は先に近藤さん達のところに行ってるよ。だから、もうお別れだ。


さよなら世界、俺の愛した人。



***



ふわり、風が花びらを運んだ。アイツの声が聞こえた気がした。

変わりなく過ぎるこの日常を守る為にお前は死んだんだろう。誰も知らなくても、俺は知っている。
多分、いや、もうこれからこの歌舞伎町であの黒服を見ることはなくなるだろう。そして人々の記憶の中から薄れていってしまうのだろう。誰も、お前達が成し遂げた大義を知らぬまま。


「寂しく、なりますね」

「…そうだなァ」

「アイツともう殺り合えないなんて、つまんないヨ」

「…そうだなァ」


ギィギィと椅子が鳴る。開けっ放しの窓からまた花びらが入って来た。
机の上に着地したソイツを拾い上げてまた落とす。もう桜の季節が終わる。五月の中頃だ。今年は異常に桜が咲く時期が遅れたらしい。普通ならもう葉桜になっているはずが、まだ満開の木もある。それは万事屋の近くにそびえている木だったりする。だから窓を開けていると、いつも数枚花びらが迷いこんで来る。

土方が咲かせているのかも、なんて。

そんな馬鹿なことを考えてみる。
近藤が死んで、沖田君が死んで、お前は何を思っただろう。それでも、ただ前を向いて一度も振り返らなかったお前を俺は見ていた。死んでいった奴らの思いを胸に抱いて、お前は立っていた。


「幸せ、だったか」


今更聞くことは出来ないけれど。アイツがアイツの思いを遂げることが出来ていたのなら、アイツは幸せだろう。

落とした花びらをまた手に取って、窓際に立つ。手を開いて花びらを風に乗せた。
桜はもう散る。
満開が過ぎれば散るのはあっという間だ。風が少し強くなって、また花びらを乗せてきた。一枚も部屋には入らなかったが、花びらが俺の目の前を流れていく。


「もう、行っちまうんだろう?」


音もなく風が吹く。
桜がまた落ちた。


「じゃあ、もうお別れだな」


俺も静かに目を閉じた。



さよなら土方、お前の愛した世界。




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きっと幸せだった。