真面目坂田×不良土方3 | ナノ


この頃俺は真面目に学校に登校できている。いきなりの俺の態度の急変ぶりに、教師も生徒も驚くばかりだ。特に同じクラスの伊東には嫌み混じりに褒められた。一発殴ってやろうと思ったが、場所は学校。殴りたい気持ちをグッと抑え、俺はヒクリと顔を引き攣らせることしかできなかった。
何故俺が普通に登校できるようになったかというと、全ての理由はやはりあの坂田銀時にあるのだった。






真面目坂田×不良土方3




「土方先輩!!」

「………」


朝、家を出たらまた坂田が手を振りながらやって来た。もう何日も続くこの光景に、抵抗するのは諦めた。坂田はいつも待ち伏せをしていたかのようにやって来る。何時から待っているのか気になったが、返答が怖くて結局聞けていない。坂田は神出鬼没、それは学校でもいえることだ。なんだか俺を見張っているように思えるが、そんなことしなくても俺には十分学校に行く気はある。ただし邪魔が入らなければだけど。

だが、今日は少し違っていた。手を振りながらこちらに向かって来た坂田の後ろにもう一人人がいる。そいつは片目に眼帯をしていて、いかにも不良ですという顔をしていた。制服は違うから、どうやら他校の生徒のようだ。


「……おい、坂田。後ろの奴は誰だ」

「高杉、俺のダチだよ。因みに俺とタメね」


坂田と同級生だという高杉は、確かに後輩に見えた。何というか、顔は大人っぽいのだが身長が小さいのだ。俺は不覚にも坂田と同じ身長だ、気に食わないが。それに比べて高杉は小さい。なんだか無性に頭を撫で回したい気分になる。
そこまで考えて脱線した思考を元に戻す。今俺が考えなくちゃならないのは身長の事ではなく、何故高杉が坂田と一緒に俺を迎えに来たのか、だ。ああ、嫌な予感しかしないのはどうしてだろうか。


「先輩」

「な、何だよ……」


ニッコリ笑顔で俺を呼んだ坂田。その後ろでは相変わらず高杉がニヤニヤしていた。その笑い方やめろ。
坂田がこんな風に笑顔になるとき、絶対に俺にとって嫌な事しか起こっていない。今日はどんな事を言われるのか身を構えた。坂田はそれに気づいたのか、もっと笑みを深くして言葉を続けた。


「馬鹿みたいに強いって評判の奴がいるんです。そいつ今から負かしに行きましょうよ!」

「……は?」


一瞬俺の頭が現実逃避をした。そして坂田の言葉をゆっくり頭の中で繰り返す。負かしに行く?今から?学校はどうすんだ、お前風紀委員だろ、と言いたいことはたくさんあったが言葉が絡まって出てこない。今から倒しに行くなんて駄目に決まってる。学校があるのだ学校が。ただでさえ俺は出席日数が足りないというのに。これ以上サボったら留年になってしまう。坂田と同じ学年になるのだ。それだけは避けなければならない。そんな事になった日には、毎日が地獄と化す。想像してしまったらなんだか気分が悪くなってきた。


「駄目だ坂田。俺は学校に行く」

「えー、先輩ノリ悪いー」

「出席日数稼がなくちゃなんねぇんだよ。留年だけは避けたい」

「先輩が留年したら同じクラスになれるかも…。先輩、留年しましょう!」

「阿保か!テメェ腐っても風紀委員だろうが!」

「いでっ」


坂田の頭を一発殴ってやる。酷いですよ先輩という声が聞こえるが、俺は酷いことをしたなんてこれっぽっちも思っていない。後ろでは高杉がニヤニヤしながらこちらを見ている。なんだ、と睨み返したら高杉が口を開いた。


「土方、負けるのが怖ェのか?」

「……は?」

「だから、負けるのが怖ェから拒否ってんじゃねぇのか?」

「ンなわけねーだろッ」

「ふーん、どうだか。口では何とでも言えるからなァ」

「上等だコラ!行ってやろうじゃねぇか!!」

「え?先輩行ってくれるの流石ぁ!」

「あ……」


しまった、と思った時にはもう遅かった。キラキラした目で俺を見てくる坂田。これは完璧に高杉に嵌められた。まさかこんな安い罠に引っかかるなんて、俺も馬鹿だ。高杉はチョロイもんだ、みたいな顔をしている。むかつく。だが行くと言ってしまった以上前言撤回はできない。一度言った事は曲げない、プライドが許してくれなかった。俺は腕を引っ張る坂田に、しぶしぶ着いて行くことにしたのだ。



**



着いた先は港に近い、もう使われていない工場だった。悪役ってこういう場所に溜まるのが好きだよな、と思っていたら坂田が肩を叩いてきた。それから一枚の紙を俺の前に出す。ピラピラと風に揺れる紙。その紙に書かれた内容に俺は絶句せざるをえなかった。

――果たし状 テメェら全員ぶっ潰してやるから、指定の場所に朝から来い 土方十四郎

明らかに弱い奴が意気がって書くだろう文章に、ご丁寧に名前まで書かれてある。それに指定の場所に赤丸を書いた地図まで添えて。坂田はこれと同じものを送ったのだ。わなわなと震えが止まらない。こいつ、俺を学校に行かせたいのか行かせたくないのかどっちなんだ。土方十四郎と書かれた紙を坂田からぶん取り、ビリビリに破いてやった。


「テメェ坂田ァァァ!!何人の名前勝手に使ってんだコラァァァ!!」

「えー、だって俺風紀委員だしィ、バレたら困るしィ」

「語尾を伸ばすなキモい。なら高杉の名前を使えばよかったじゃねぇか!」

「だってコレ、先輩の強さを相手に見せ付ける為の行為だから、先輩の名前を使うのが妥当だと思います!」

「何言いきった顔してんだ一発殴らせろ」


俺達がギャーギャーやってるうちに、気付いたらいつの間にか周りを囲まれていた。高杉は至って余裕だし、坂田も別に驚いてはいない。前の強さといい、この状況の慣れ具合といい、坂田はいったい何者なんだ。

カツン、と一つの足音が聞こえた。囲んでいた奴らがサッと道を開ける。そこから、ニコッと笑顔の少年が出てきた。あれ?少年?


「土方十四郎って、どいつ?」

「この人ですっ」

「ふざけんなテメッ坂田ァァァ!!」


ピンクの髪を後ろで三つ編みにして、ニコッと笑顔を崩さない少年。なんだか弱いのか強いのかわかりゃしない。少年は笑顔のまま俺に尋ねた。


「ねぇ、お兄さん強いの?」

「……は?」


その瞬間少年は目の前から消えていた。と、隣から風を感じて坂田を突き飛ばし自分も避ける。今さっき立っていた場所に少年の拳がめり込んでいた。あの、地面コンクリートなんですけど。


「噂以上だね」

「……」

「俺神威っていうの。お兄さんなかなかやるね」

「逃げてもいいですか」


神威と名乗った少年は、コンクリートにめり込んでいる手を持ち上げる。全く痛がる素振りを見せていないところを見ると、コイツは本当に人間なのか疑いたくなった。
坂田はまだ尻餅ついているし、高杉はただ立っているだけ。ちょっと待てよ、こんな奴と本気で喧嘩したら怪我の治療費が馬鹿にならない。それに運が悪けりゃ、殺られる。
神威は相変わらずニコニコしている。坂田を引きずってでも逃げたいがそう簡単に行きそうにもない。


「おい高杉!!坂田連れて逃げろ!!」

「無駄だよお兄さん」

「……」

「だって高杉は俺の仲間だもん」

「「……、は?」」


神威の言葉に俺と坂田が同時に言葉を発する。その直後に坂田はもう高杉に向かって怒声をあげていた。この様子だと坂田は本気で知らなかったらしい。
きっと神威は坂田が送った手紙と流れる噂で俺に興味を持った。一発手合わせしたかったけど手紙の内容がアレだったから、高杉に手紙の真意と俺を確実にここに来るように仕向けることを予め仕込んでおいたのだ。
ようするに俺達は高杉にまんまと嵌められたというわけだ。


「絶対許さん!高杉許さねえからなぁ!!」


まだ叫んでいる坂田の頭を一発しばく。この人数を二人で相手にするのはキツイ。それに神威は本気でヤバいと思う。まだ未知数の坂田でさえ、勝てるかどうか怪しい。


「坂田」

「……ごめん先輩、まさかこんな事になるとは」

「謝るんじゃねぇ。いいか、今は逃げる事だけを考えろ」

「……」

「あの神威ってヤローは俺狙いのはずだ。俺があいつとやり合ってる間にお前は逃げろ」

「先輩!!」

「話は終わった?」

「ちッ」


神威はあきらかに戦闘モードに入っている。顔は笑顔なのに、出ているオーラが強すぎる。どこまで持ちこたえれるか分からなかったが、とにかく坂田を逃がす間の時間稼ぎくらいはしなくてはならない。
神威が一歩、俺に近づく。じゃり、と砂を踏む音が聞こえた。


「本気で来ないと、殺しちゃうゾ」

「―――ッ」


タン、と地面を蹴った神威の身軽さに言葉も出ない。どこのアニメの主人公だ、というくらい身軽で。神威の周りには重力なんてもの無いんじゃないか、本気でそう思えてくる。
繰り出される攻撃を何とか防ぐものの、衝撃が大きすぎてヤバい。これは、本気で病院行きを覚悟した方が良さそうだ。


「!?」


神威が足を蹴り上げる。その拍子に砂が舞い上がって目潰しの効果を発揮する。反射的に視界を閉ざしてしまった俺は、すぐに目を開いた。俺の視界に再び戻ってきた神威の手には、何かが握られていた。

――傘……?

思考が働いたのはその一瞬だけ。次の瞬間には腹部に強烈な痛みが走っていた。そのまま地面にたたき付けられて息が詰まる。腹部から嫌な音が聞こえて、骨が折れた事を確信した。


「テメ……う、ぐ」

「お兄サン、まだいけるよね」


腹部に足を置かれて体重をかけられると、あまりの痛みに涙が出てくる。だけどこのままだと次の標的が坂田になりかねない。というか坂田は逃げたのか?視線をずらすと坂田はまだここにいた。他の神威の部下達と一戦交えているようだった。


「向こうの人もいいね」


神威が坂田に興味を向ける。坂田は確かに強い、だが神威も相当だ。それに風紀委員の坂田が怪我をして帰るのはよろしくないだろう。
神威の意識を俺に向けようと、置かれている足首を掴んで思い切り引っ張った。神威は少し驚いた表情をしていたが、すぐに体制を立て直す。俺だってこの程度で神威がどうこうなるわけないと分かっている。とにかく神威の意識をこっちに戻したかった。


「よかった、まだ戦えるね」

「……なめんなよ」


ヨロヨロと立ち上がる。目を閉じて意識を集中させる。神威は人間離れした身体能力と怪力を持っている。だからその攻撃を避け、次の攻撃に移る一瞬の隙をついて抑えこまなくてはならない。身動きがとれないように、しっかりと。
神威がまた楽しそうに笑った。それを合図に攻撃が再開される。決めては最初の一発、あまり防御もできない状態だから一発でケリをつける。

神威が傘を構える。振り下ろされた傘を最小限の動きで、ギリギリ避けた。そこから傘を掴み神威を地面へと投げ倒す。その振動で痛みが走ったが歯を食いしばって堪えた。
傘を神威の首に当てて、気管を押さえ込む。神威はまだ余裕の表情を崩さないが、ピリピリした殺気は伝わってきた。


「っは、俺がここまでやられるとはね」

「ざまー、みろ」

「でも……」

「ぐッ……ぁ、っ」


ニッコリ笑った顔で容赦なく腹部を掴まれる。ギリギリと力を篭められては、激痛に俺の力が抜けていく。また嫌な音がして、俺の肋骨は大丈夫かと心配になった。


「……うん、よかった。よかったよお兄さん」

「……く、そ」


痛みで意識が落ちていく。何とか保とうとするが、ずるずる闇へと引っ張られる。俺がここで気絶したら、坂田はどうなる。一人で戦わなければならない事になるのだ。それだけは避けなければならないと思ったが、やっぱり意識は沈んで行く。
最後に聞こえた音は、パトカーのサイレンのようなものと坂田の叫び声だった。




**





「……天国か」

「何言ってんの、先輩」


目を開けた時、視界に映ったものがあまりにも白かったから天国かと思ってしまった。だが隣から聞こえた坂田の声にまだ生きているんだと確信。だけど坂田の声はいつもみたいに飄々とせず、萎れきっていた。


「気にすんな、坂田だけせいじゃねーよ」

「でもっ」

「元々興味を持たれるような事をしてた俺も悪い」

「……」

「それに、初めから俺を入院させようなんざ思ってなかったんだろ」

「………うん」


少しでも元気づけようとしたが、逆効果だったらしい。坂田はさっきよりも深く頭を下げているし、声のトーンも落ちた。慰めるのは苦手だ、あまり人と関わらなかったせいかこういう時の接し方が分からない。互いに喋る事がなくなって、病室に一瞬沈黙が走る。こういう沈黙もあまり心地の良いものではない、むしろ逆だ。早く何か言わなくてはと頭をフル回転させていたが、努力も虚しく坂田が先に口を開いた。


「学校の、事だけど……」

「ああ」

「全面的に悪いのは向こうになった。向こうは先輩よりヤバいこと沢山してたらしいからね」

「へぇ……」

「で、先輩だけど。怪我が治ったら一応自宅謹慎だってさ」

「坂田は?」

「俺は、巻き込まれた形になってるからお咎めなし」

「そうか、よかった」

「ッ全然よくない!!」

「………」


顔を上げた坂田の顔は後悔が滲み出ているようだった。確かに、この出来事は坂田がまいた種であって俺は一切関係なかった。だけど止めなかった俺にも責任はあるし、坂田をこっちの世界に引きずりこんだ俺も悪い。俺に関わるとろくな事がないからな。
それに坂田はまだ巻き込まれた形として見てくれるまでの信用は持たれているということで。これ以上俺に関わらなければ平穏に学校生活を遅れるということだ。俺には無理な話しだが。


「坂田」

「何」

「もう俺と関わるのはやめろ」

「………ッ」

「お前はまだ戻れる所でいる。こっちに深入りするな」

「い、嫌だッッ」

「理由は」

「………、先輩と、離れるのは嫌、だ」


まるで捨てられる前の子犬のような瞳で俺を見てくる。まさか坂田がこんなふうにこんなことを言うとは思わなかったから正直驚きだ。それにこんなに弱気な坂田は見たことがない。いつもの態度はどこにいったのやら。
こんな坂田をあまり強引に突き放す事もできず、結局坂田の頭をポンポンと叩いた。


「……喧嘩抜きでなら、いい」

「へ?」

「学校だけなら、いい」

「先輩……!」


途端にうるうる目を潤ませる坂田。これが演技なのか本心なのか悩むところだが、本心と信じておこう。


「俺、毎日お見舞い来ますね!」

「来なくていい」

「林檎持ってきます!」

「いらねぇ」

「あ、校長の鬘もいります?」

「ぜってーいらねぇよッッ!!」


なんとかいつもの坂田に戻ったようだ。上辺だけじゃないならいいのだけど。それになんだかんだ言っても坂田のいる日常が当たり前になりつつある。坂田が否定してくれる事を望んでいた俺も少なからずいたのかもしれない。

そんな気持ちの変化に驚きつつ、受け入れている俺がいた。





―――――――――
拍手はギャグか甘甘か明るめって決めているのに途中から白戌通常運転になってしまった反省したい。だがこのネタ次回もシリアスになりそうだ。ギャグよ戻ってこい。
そしてスマホに変えたら携帯の時はフォントも全部同じに見えてたのに全く違う形になっている件について。統一感なさすぎじゃないのと思う方、思っていた方もいると思いますがもうフォントや字体なんて気にせず行きます。
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