猫土と銀時02

(偶然なる偶然か、必然か仕組まれた運命か)


とうしろう、そう名乗った猫はじっとこっちを見つめている。
まさかまさかまさか、こんな偶然あっていいのか。
それとも、サド王子こと沖田君の差し金か。
いや、差し金は違うな。
土方に何かしたのだろうか、まさかこの猫が土方本人だったり………。


「万事屋ァァァァァァァァ!!!」


玄関のドアが乱暴な音をたてて開かれた。
聞こえてきた叫び声は、土方のもので。
ドタドタという足音に怯えたのか、とうしろうは俺の足元にしがみついている。


「よ、よぉ土方。叫び声なんかあげてどうしたん………ん?」


とうしろうの頭を撫でながら、なるべく穏やかに土方に話しかけようとした。
だが、俺は土方が腕に抱えているものを見て言葉を失った。
土方も、俺の足にしがみついているものを見て言葉を失っている。
二人同時にそれを指差しながら、叫んだ。


「「俺ェェェェェェ!?」」











「……いや、俺じゃねぇ、さっきのは間違いだ、これは断じて俺じゃねぇ」


土方はソファに座って一人ぶつぶつ言っている。
あれだけ俺には警戒心剥き出しだったとうしろうは、土方に擦り寄るように隣に座っている。
俺は向かい側のソファに、土方が抱えてきた、俺かっこ犬耳ヴァージョンと座っている。
俺が拾ってきたとうしろうと同類なのだろうか。
年齢も体の大きさから見ればとうしろうとだいたい同じくらいだし。
そのふてぶてしい顔には、とうしろうのような可愛らしさはかけらも無かったが。


「で、土方くーん、これはどういうこと?」

「俺にもわかんねぇよ。仮眠とって目が覚めたらこいつが部屋にいた。お前こそそいつどうしたんだよ」

「拾った」

「………は?」

「ダンボールに入れられて捨てられてたから拾った」


きょとんとした顔で俺を見て、とうしろうを見る。
どうせ自分と同じく何故か部屋にいた、と思っていたのだろう。


「そうか、お前捨てられてたのか、大変だったな」


土方は優しくとうしろうの頭を撫でる。
とうしろうは気持ちよさそうに目を細めた。


「だが、捨てられてたなら前にこいつを飼っていた奴がいるということだぞ」

「ああ、そいつ捨てたの俺でさァ」


土方の疑問に答えたのは、俺ではない。
ここには居るはずもない人物、沖田君だ。
どうやって、いつ入ってきたのかはあえて聞かないでおこう。


「総悟っ、テメェか!」

「あーあ、土方さんがいきなり大声だすから、チビが怖がってるじゃねぇですかィ」


土方の声にビックリしたとうしろうの耳をグイグイ引っ張る沖田。
あ、とうしろう泣きそう。
そんな感情豊かなとうしろうに対して、小さい俺はどうだ。
けだるげな目でやり取りを無言で見ている。
………本当可愛いげのない奴。


「やめろ馬鹿っ!てかなんでお前がこいつ捨てたんだよ。こいつらの原因はお前にあるってか!そうだな!」

「面白そうな天人の薬見つけたんで、数日前の酒の席で二人の酒に混ぜさせてもらいやした」

「どういう教育したらこんな腹黒な子に育つのかねぇ」

「知らねえよ!てかお前も何か言えっっ!」

「いや、そいつ可愛かったし、俺は意外と沖田君に感謝してる」

「てめぇ………」


ふるふる拳を握って怒りをあらわにしている土方に、とうしろうがちょこんと手をそえた。
土方は無言でとうしろうを見つめると、舌打ちを一つして立ち上がった。
あ、とうしろうがちょっと怯えてる。


「もういい、帰る」


それだけを言い残してすたすたと玄関の方に向かう土方を見て、小さい俺はソファからおり、土方について行った。
追い払うかなーと思ったが、小さい俺と土方の姿はそのまま玄関から消えていた。


「土方さん、あれでも小さい旦那のことは気に入ってるんですぜ?」

「え、まじで?」

「銀〜、なんて呼んでましたし」

「へぇ、あいつ可愛いとこあるじゃない」

「鼻の下のびてやすぜ、旦那。てか、こいつには名前つけないんですかィ?」

「にぎゃっ」


いきなりしっぽを掴まれ、涙目になりながら俺に助けを求めるとうしろう。
慌ててとうしろうを腕にかかえると、ポロポロと黒い瞳から涙が零れた。


「大丈夫大丈夫、痛かったなぁ」

「うう………」

「虐めがいがありますねィ」

「そういうなって、てかこいつ自分でとうしろうって言ってたぞ」

「まじですかィ、でも長くて平仮名でわかりにくい」

「確かに、土方とかぶるしなぁ」


とうしろうの背中を軽く叩きながら、名前というか簡単な呼び名を考える。
土方は銀って呼んでるんだよな、確か。


「トシとかよくね?」

「でも近藤さんが使ってますぜ」

「どうせゴリラだけだろ?カタカナだし短いし、お前もトシでいいよな?」


とうしろうに問い掛けると、控えめにコクンと頷いた。


「じゃ、決まりだな」

「じゃあトシ、旦那に迷惑かけるんじゃねーぞ」


沖田はバシッとトシの頭を叩いてでていった。
プルプルと震えて、自分の頭を押さえてキッとした目で沖田がでていった玄関を睨みつけているトシ。
その目の鋭さはどことなく土方に似ていた。


「あいつ、許さん」


ちょっと驚くくらいの低い声で言うトシ。
さっきまで泣いていたこいつは何処へ行ったのやら。
俺はトシの頭を撫で、軽く微笑んだ。

110201
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