真面目坂田×不良土方


太陽はもう既に顔を出していて、携帯のディスプレイで時間を確認するととうに登校完了時間は過ぎていた。未成年は吸ってはいけない煙草をポケットから取り出す。今口にくわえた煙草が最後の一本だったので空になった箱は握り潰して捨てた。吐き出した煙りが宙を漂って風に掻き消される。乱れた制服をある程度整えてから俺は数人が気絶して倒れているもう使われていない倉庫から外に出た。

今日は真面目に学校に行こうと思った。だからきちんと朝飯を食べて、時間も確認して家を出たのに。門に着く前に誰だか知らない輩に絡まれてしまった。売られた喧嘩は買うのがモットー。俺は奴らを叩きのめすべく先程いた倉庫まで移動したのだ。
今から学校に行ってもどうせ授業はもう半分終わっているし、何よりこの格好だからますます行く気が失せた。体のあちこちに見える切り傷と打撲。血が滲んでいる箇所も何個かある。制服だって無事ではない。砂埃で汚れてあちこちに擦れている。あきらかに喧嘩してきましたと言わんばかりの格好だ。教師に捕まってまた生徒指導室行きになるのも面倒だから、やっぱり今日は学校を休むことにした。

せっかく早起きしたのに、いつもこうなる。思えば遅刻をしないで学校に行けた日はいつだっただろうか。高校に入ったら喧嘩は辞めようと心に誓った筈なのに。中学の頃少々暴れ過ぎたらしい。その時俺にやられた奴らが仕返しとばかりに奇襲を掛けてきたり絡んできたりと結局喧嘩が辞めれない。学校に行ったら行ったでクラスメイトからは異質な物を見るような目で見られるし、散々だ。それでも学校に行こうという気がある俺を少しでも褒めて欲しいものだ。俺は家に帰るべく学校とは反対方向の道を歩き出した。


「っうお」

「いてっ……」


少し歩いて曲がり角を右に曲がった瞬間誰かとぶつかった。その時調度相手の腕が打撲した場所に当たって痛みが走った。謝ろうと思い前を向くと、見慣れた制服を着た銀髪野郎が立っていた。見慣れた制服というか、俺が着ている制服と同じだ。しかも銀髪という珍しい容姿。こんな奴が俺の高校に居たとは。滅多に学校に行かない身としてはクラスメイトすらまだ把握していないから学年や学校全体となると殆ど顔や名前も分からない。だからこんな珍しい奴の存在にも気付かなかったのか。それに俺よりよっぽど不良らしい。


「あのさ、何ジロジロ見てんの?」

「っあ、す、すまねぇ」


指摘されるほど見ていたのか。そんな自分が恥ずかしくなる。銀髪野郎はやる気の無い目を俺に向けて、あれ?と声を出した。


「もしかして学校一緒?」

「そうかも、な。制服、一緒だし……」


喧嘩の時は別なのだが結構人見知りするタイプの俺。初対面でこんなにズバズバ話し掛けられたら返事に困る。早くこの場から、銀髪野郎から離れたかった。鞄を握りしめて立ち去ろうとすると、後ろから制服を掴まれて俺はそれ以外前に進めなくなった。


「どこ行くの?学校は?」

「いや、こんな格好だし…。今日は休む…ことに、する」

「んなの保健室で見てあげるよ」


その言葉に思わず声を上げそうになった。見てあげるってコイツ何言ってんだ。俺はさっさと家に帰りたいんだだからその無駄に力を込めて制服を握っている手を早く離して欲しい。


「いや、別に……」

「俺、風紀委員なんだ」


笑顔で言う銀髪に、俺はひくりと口元を歪める。喧嘩は上等なのに、こういうのは凄く苦手だ。しかも俺は風紀委員にかなり嫌われているらしい。そりゃ誰もこんな手に負えない奴なんか好きになれる訳がないよな。だから早く家に帰してくれ。


「俺も実は寝坊してさ、一人で行くのアレだなーって思ってたんだ」

「………」

「坂田銀時、一年。よろしく土方先輩」


その笑顔と聞かされた後輩という事実に、俺は渇いた笑いすら出てこなかった。



***



坂田銀時と名乗った風紀委員の一年は、銀髪という珍しい容姿をしていた。
結局俺は保健室まで連行されて、坂田の手当てを受けている。消毒液が傷にしみて軽く涙目になる。


「土方先輩本当に喧嘩強いの?みるからに弱そうだけど、全体的に」

「…負けたことは、ねぇよ」

「今は俺の消毒だけで涙目になってるのにね」

「いだっ―――っう…」


思いきり消毒液の染み込んだガーゼで傷口を押さえられて思わず声が出てしまう。絶対にわざとだ。凄いムカつく。


「てか、何で俺の名前知ってんだ」

「土方先輩は風紀委員の中では有名だしね」

「……そう、か」

「あ、言っとくけど俺の髪は染めてないから。土方先輩みたいに不良じゃないんで」

「………」


残りの疑問もまるで俺の心を読んだかのように答える坂田。それにいちいち腹立たしくなるような言い方をしてくる。一言余計だ。
そうしている間に手当ては全て終わったらしく、坂田は救急箱を片付けだした。このあと俺は教室に行って教師に呼び出され、授業も受けられず下校することになる。きっとそうだ、今までの経験上。ため息をつきたくなったその時、いきなり坂田が俺の顔を掴んで覗き込んだ。


「ななな何だよ」

「いや、キレーな顔してるのに怪我なんかして勿体ないなーって」

「はぁ!?」

「あ、赤面した顔も可愛いね先輩。食べちゃいたい」

「ははははぁっ!?」

「これで喧嘩強いっていうから驚きだよね」


頭の中が坂田の言葉を処理しようとフル活動している。問題発言をした張本人は至って普通に俺の目の前に座っている。なんだコイツは、何なんだコイツは。喧嘩の相手なんかよりよっぽどコイツの方が怖く思えてきた。


「先輩、俺予約していい?」


何を、とは聞けなかった。それは坂田が俺の口を口で塞いだからで。あまりの事に事態に追い付けていない俺をいいことに舌まで入れようとしてきた坂田。そこでハッと我に返り坂田を全力で突き飛ばす。それから坂田の方を一度も見ずに保健室から飛び出した。


「かーわいー、先輩。絶対食べてやる」


坂田が誰も居なくなった保健室でそんな恐ろしい発言をしていたなんて俺は知らない。




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後日土方先輩は坂田後輩に嫌というほど食べられかけますがいつもスレスレで回避します。坂田舌打ち。
喧嘩は強いのに普通に攻められるとてんで駄目で弱気な土方先輩萌え。
喧嘩に発展しなかったら基本弱い土方先輩。