銀土 | ナノ

 君と

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あいつに出会ったのは本当に偶然。きっと、あの日あの場所で会っていなければ俺達は一緒交わることなどなかっただろう。
あいつ、土方を見つけたとき俺の心臓に電流が走ったね。俺はきっとあの時の感情を絶対に忘れない。それ程までの激情。そう、初恋という名の感情。





君 と 羊 と 青





空は絵の具をそのままぶつけたように青かった。高校二年の夏、アイスをくわえて空を仰ぎ見た俺はその群青にため息を吐いた。ポタリ、ポタポタ、アスファルトから発される熱と太陽光によりアイスが溶けはじめる。灰色のアスファルトに黒い斑点が散った。

明日から夏休み。受かれ気分でいると最終日に宿題に追い込まれて泣くはめになるのは重々承知だ。なんだって俺は経験者だからな。でもやはり遊びより宿題を優先させることなどできないわけで。ああ、今年も俺は宿題様に泣かされるのかとしみじみ思った。


「ぐ、ぅあっ……ッ」

「……ん?」


自宅へと向かう足をピタリと止める。今、悲鳴が聞こえたような気がした。入り組んだ住宅街、何処から声がしたのか分からない。このまま知らぬふりをして早く家に帰ればいいものの、俺の足は自然とその声の出所を探し始める。
まったく、損な性格だ。だから俺はいつも厄介事に巻き込まれるのだ。


「っおら!金持ってねーのかよ!」

「っう、…く、そぉっ」

「はは、もう大人しく金出したらどうだ?」


だんだん聞こえる声は大きくなる。何を話しているのかも鮮明に聞き取れるくらいに。
会話からして多分カツアゲ。最近は物騒になったもんだよ、まったく。

曲がり角を曲がると、調度行き止まり。しかも数人の人影が見えた。ビンゴ、ここだ。俺はわざと大きく足音を立てて近づいた。


「ちょっとそこのお兄サン達。何やってんの?」


ピタリ、時が止まる。一瞬の静寂の後、俺に全ての視線が集中した。
ガラの悪い奴ら。まあ、きっと高杉には敵わないけどね。


「ああ?何だてめぇ」

「ただのしがない高校生ですけど?てかお宅ら何?カツアゲ?ぷぷ、そんなことしないと金、稼げないの?だっせー」

「んだとコラァ!!」

「お、何?やる?」


持っていた学生鞄を投げ捨てる。向かってきた下っ端野郎が俺の顔面目掛けて殴りかけてきた。が、そんな遅い動きじゃ絶対俺には当たらない。軽々と避けてやって、お返しに俺が右ストレートを食らわしてやった。
顔面直撃。思いっきりいったから、相当痛いだろうなあ。案の定そいつは鼻から血を出して俺の前に倒れた。


「お前、なかなかやるじゃねぇか」

「それ程でも?」


リーダー格の奴が出てくる。他の奴らはその後に続く。できた隙間から、壁にもたれかかるように倒れている人が見えた。きっと、カツアゲされていた奴だ。
俺とは正反対の黒髪。肩で息をしているところから見て、まだ意識はあるみたい。でも体中傷だらけで、あちこちに血が滲んでいた。
あーあ、痛そうとか考えてたら、そいつは顔をあげた。

その瞬間、確実に俺の心臓に電流が走った。綺麗に整った顔、吸い込まれそうな黒い瞳に真っすぐこちらを睨みつける視線。何ともいえない感情が俺を支配する。
あれ、これ、何て言ったっけ。こういうの、何て言うんだっけ。


「あ……」


思い出した。周りの奴らが何か言ってるが、まったく耳に入って来ない。だってあまりにも衝撃的。

――一目惚れ

そう、この感情の名だ。



**



気がついたら俺の周りには気絶している男達が横たわっていた。アイツにばっかり意識を取られて、容赦なく男達をやってしまったらしい。誰ひとりとして起き上がる気配はなかった。


「あ、……大丈夫、か?」

「……何で助けた」

「え?いや、何でって言われても……」


それが俺の性分なんだから何とも言えない。警戒心バリバリのソイツは、壁に手をついて立ち上がろうとしたが失敗して地面に逆戻りした。
慌てて駆け寄るけど、どうにも俺の手は借りたくないらしい。また自分の力で立ち上がろうとした。


「無理すんなって」

「てめぇには関係ねーだろ」

「関係ねぇって、お前なぁ」


つーんとそっぽを向くソイツ。そんな怪我じゃ助け無しでは歩けないだろうに。何をそこまで意地をはるんだろう。俺には理解できやしない。

でもさすがにここまでツンケンされると俺も半ばやけくそになる。だってせっかく助けてやったのに。まぁ、こんなことを言えばきっとコイツは「頼んでねぇ」とか言うんだろうな。実際その通りだけど。

ガシっと傷だらけの腕を掴んで俺の肩に無理矢理回す。何すんだと抵抗の声が飛んできたがそんなの無視する。


「俺ん家来いよ。手当すっから」

「はぁ!?いらねぇよ!」

「大丈夫大丈夫。俺、親いねぇから迷惑じゃないし」

「会話が噛み合ってないんですけどォォ!!」


暴れるにしろ元々体力の限界が来ているだろうこいつの抵抗はそれ程強いものではなかった。耳元でギャーギャー騒ぐコイツを無視して、無理矢理自宅へ連行することに成功したのだ。



**



ぶっすー、とふて腐れてるソイツ。棚から救急箱を取り出してソイツの前に持って行った。消毒液をかけてやると染みるのか時々ビクリと身体が揺れた。


「なぁ、名前なんつーの?」

「人に尋ねる時は先に自分が言え」

「……そうですね。俺、坂田銀時」

「銀時?てめぇの頭とピッタリな名前じゃねぇか」


そう言ってソイツは俺の頭をじっと見つめる。たしかに銀髪なんて珍しいだろう。おまけに天パだし。


「俺は、土方十四郎」


土方って、いうのか。名前を聞けて嬉しくて、ついつい手に力が入ってしまう。傷口を強く擦られた土方は痛いと声をあげた。


「ふざけんなくそ天パ!もっと優しくしろ馬鹿!」

「あ、ゴメン。それと俺くそ天パじゃないから。さっき教えた名前と違うから」


少し涙で潤んだ瞳で見上げてくる土方。何これ俺フィルターかかってる?凄く可愛く見えるんですけど。
もう相手が男だとか、そういうのは俺の中にはなかった。ただ、コイツが、土方が好きだという気持ちしか。

偶然の出会い。いろんな要素が重なって俺達は出会えた。出会いっていうのはだいたいそんなもんだ。
土方との出会いをここで終わりになどしたくなかった。思い切って携帯番号とか聞いちゃおうか。
そんなことを考えていても俺の手はテキパキと消毒をこなしていく。気付いた時には消毒は既に終了していて、土方に小さくお礼を言われていた。


「じゃあ、俺帰るわ」

「っえ!?ちょ、待って」

「何?」


あまりにもあっさりと帰ろうとする土方に俺は慌てて土方の腕を掴んで引き止めた。このまま帰してなるものか。まだ名前しか聞いていないのに。せめてメアドと電話番号は交換したい。そして今後友好関係を築いていきたい。

いきなり腕を掴まれて動けないことに不満を感じているのか、土方の眉間にしわがよる。あ、これ早く何か言わないとヤバいな。そう思うのに口からは何も出てくれない。いつもの口達者な俺はいったい何処に行ってしまったんだ。


「用がないんなら帰るぞ」

「いやいやいや、待てって」

「なんだよ早く言えよ」

「あ、いや、あれだあれ!お前今日泊まっていけよ!」

「は?」

「………へ?」


俺を見て目を丸くしている土方。何言ってんのコイツって目だ。

本当、何言ってんの、俺。

「何で泊まり?」

「いやあの、お前怪我してるし、このままここでゆっくり休めばいいかなーとか思ったり、して」

「ふーん。お前親とかは?」

「…いや、俺一人暮らしだから」

「へー」


咄嗟に出た言い訳。我ながら理由にしては悪くないと思う。それにあからさまに拒絶してこない土方の態度にも少しの希望が見えた。と同時になんだか無防備過ぎて逆に不安になる。いくら男同士だとはいえ今日知り合ったばっかりの奴の家に泊まりに誘われたらもう少し警戒してもいいんじゃないのか。


「実は俺も一人暮らし」

「あ、そうなんだ」

「そう。じゃ、今日は泊まらしてもらう」

「ですよねー、帰りますよね」

「は?お前人の話し聞いてた?泊まるっつってんだろ」

「分かってるよ泊まるんだろってえええええ!?」

「んだよ、てめぇが泊まってもいいって言ったんだろ」

「いや、言った。言ったよ?言ったけども!!」


あっさり承諾しすぎじゃありませんかね?と続く言葉は口には出さなかった。だって、でも、ええ?だけどお泊りなんて距離を縮める絶好のチャンスだ。こんなおいしい展開になるなんて。お泊りなんて言った俺、グッジョブ。


「なんだよ。じゃあ俺帰る」

「はぁ何言ってんの!泊まるんだろ男に二言はねぇんだよ」

「さっきから忙しい奴だな」


呆れながらも多少笑っている土方。もしかして、今俺好印象?
俺の心の中は絶賛パラダイスタイムに入っている。本当にこんなにも上手い具合に事が運んでいいのだろうか。俺は今恋愛の女神に微笑まれているのだろうか。
心臓がバクバクと動くなあ、俺はあることに気が付いた。そういや土方、着替えとかどうするんだ?もしかしてこれは俺の服を着るフラグなのか?

(土方が俺の服を……)

あ、ヤバい鼻血でる。
俺が一人自分と格闘している間、土方が怪訝な視線を送っていたがあえて触れない事にした。






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