銀土 | ナノ

 願わくば、どうか来世で幸せに

※死ネタ
願わくば、どうか来世で幸せに




土方は刀の切っ先を銀時の首に当てた。少し肉に食い込んで血が出ている。銀時は動じなかった。ただじっと土方を見つめるだけだった。今にも泣きそうに顔を歪める土方を、抱きしめることは刀が邪魔をした。

誰もいない万事屋で、静寂が二人を包む。仰向けになっている銀時に跨がる土方は、そのまま動かなかった。銀時の喉に切っ先を食い込ませたまま、微動だにしなかった。後少し力を加えて刀を刺せば間違いなく銀時は絶命するだろう。土方もそのつもりで刀を当てているのだが、身体は動いてくれなかった。
カタカタと震える土方の手に、銀時はそっと自分の手を添える。そのことに過剰に反応した土方を見て、その手を強く握った。


「俺は知ってる。土方が何よりも真選組が大切だってこと」

「ぎ……とき」

「だから俺はお前を恨むなんて真似しねぇ」


早く突き立てちまえ、とはかない笑みを浮かべる銀時を見てよけい手が動かなくなった。土方は分かっていた、銀時が何より他人を大切にすることを。だから今回も、黙って殺されてくれる事を分かっていた。本当は暴れて抵抗して逆に自分を殺してくれたらどんなにいいかと思った。この責任から解放して欲しかった。

ポタリ、涙が銀時の頬に落ちる。動かない土方を見兼ねた銀時が、刀を素手で掴んだ。刃の部分を持ったため、手が斬れて血が垂れる。


「ごめんな」


銀時は一言謝った。はたしてそれは何に対しての謝罪だったのか。先に逝くことについてか、土方を殺せないことについてか。だけどその答えはもう聞けない。ゴポリと大量の血を吐き出した銀時は、そのまま動かなくなった。後に残ったのは、銀時を殺したときの感触と絶望だけ。
土方は銀時から刀を抜く。血に濡れた切っ先を、今度は自分の心臓に向けた。


「俺は真選組もお前も、失いたくなかった。だから魂だけでもお前の元に」


涙が頬を伝うなか、銀時に口づける。最後の口づけは血の味がした。




**




「白夜叉、坂田銀時の暗殺……」


土方の手の中にある紙にははっきりとそう書かれていた。直々に渡された手紙、まさかこんな内容が書いてあるとは思いもよらなかった。できなかった場合には、組の存続はおろか近藤の首が飛ぶかもしれないとも付け足されて。こんな脅しのような文章を書かれて、土方が逆らえるわけがなかった。上は何もかもお見通しというわけなのだろう。土方は紙を手の中で握り潰した。

土方と銀時は所謂恋人同士だ。そこらの恋人みたいに甘い関係ではないものの、お互いに気を許した存在だった。
ずっと続けていけるとは思わなかったが、まさかこんな形で終わりを告げるなんて最悪過ぎる。
土方はぐしゃぐしゃになった紙を机の引き出しの奥の奥にしまい込む。それから壁に立て掛けてある刀をじっと見つめた。


「……いるんだろ?山崎」

「………はい、」


襖の向こうには山崎が立っていた。山崎には全てを悟られているだろう。土方は山崎を部屋へと迎え入れた。
山崎は土方の前で正座をする。握りしめられた拳が今の山崎を表しているようだった。対する土方は、静かに煙草を吸っている。


「なんで、副長がこんなことやらなくちゃならんのですか」

「……さあな」

「どうして、副長ばっかりいつも」

「山崎」


山崎の言葉を遮るようにして土方は名前を呼ぶ。山崎は涙ぐんでいて、顔を見られないように俯いていた。その頭を土方はぐいと手で抑え、それからぽつりと呟いた。


「後のこと、頼む」

「ふくちょ……ッ」

「いいんだ、俺は幸せだった」


それが、山崎が聞いた最後の言葉だった。





****





沖田総悟は土方の引き出しの中からぐしゃぐしゃになった紙を見つけた。そしてその内容を見て顔を歪める。畜生、と無意識に言葉を漏らした。

土方が死んだ。そして銀時も死んだ。銀時は喉元を刀で一突き、土方は心臓を一突きだった。
発見したのは神楽で、寝室で二人して倒れていたそうだ。見つけた時には既に二人とも絶命していて、死後数時間が経過していた。抜かれていた刀は土方の物、二人分の血液反応も出た。ただ、争ったあとはなく、二人が一体何の為に死ななくてはならなかったのか、真相は誰にも分からなかった。ただ一人、山崎を除いては。

だが、沖田は今全てを把握した。土方は銀時の殺害を命じられ、組と近藤を盾に取られた。誰にも告げず、自分だけで片付けようとしたのだ。その結果が、これ。
二人は二人だけの世界に行ってしまった。周りの人間を全て置き去りにして、もう手の届かぬところまで行ってしまった。
神楽や新八は泣いていた。いつまでも二人の傍から離れようとはしなかった。


「馬鹿野郎が」


こんな紙切れ一枚に振り回されやがって。
沖田の言葉は嗚咽で消えてしまった。畳に吸い込まれるように消えていく水滴。滲む視界に映るのは、土方がいた副長室の風景。


『総悟』


まだ名前を呼んでくれるような気がして。


『総一郎君』


二人して笑ってくれるような気がして。

もう二度と来ないそんな日常を、沖田は見た気がした。



運命に翻弄された二人へ、どうか来世は幸せに。






next world






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