銀土 | ナノ

 Thanks happy day

思えば朝からどことなく違和感は感じていたのだ。近藤さんなんか違和感MAXだった。あの人は嘘をつけない人だ。何か俺にバレたらいけないような事をして必死に隠しているのかと思った。しかしそれは違った。確かに隠し事はしていた。けれどもまさかこんな。

目の前に起こっている事がなかなか脳で処理できていない。俺の隣には銀時がいて、してやったりと笑っている。目の前には俺の為に用意されたであろう飾りと料理。

誕生日おめでとう、そうかかれたプレートを見て何かが込み上げてきた。



Thanks happy day




銀時は知らないだろうが、俺は妾の子。生まれてきてはいけない存在だった。そんな俺が誕生日なんてものを好きなはずもなく、必死に忘れようとしていた。忘れようとすればするほど自分の中に刻まれていく。逆効果だった。近藤さんと知り合ってからは、一回だけ祝われた事があった。いろんなことを思い出して吐きそうになった。近藤さんは悪くないのだ。全てはまだ自分の中で消化しきれていない俺の責任である。その次の年には逃げた。これもまた、弱さゆえからの逃亡だった。近藤さんは鈍い様で鋭い。逃げた年の翌年から俺は祝われなくなった。ただちょっとご飯が豪華だったり、総悟のイタズラが軽くなったり。毎年そんなことを繰り返していた。
武州を出て江戸に来て、仕事に追われる様になった。誕生日、世間は連休真っ只中。俺はこれでもかと言うほど仕事を入れた。総悟には冷めた目で見られたが、近藤さんは明らかに心配していた。それから仕事は入れなくなったがずっと外をブラブラしていた。
いつもと同じように過ごせない日常。これが俺の誕生日だった。

銀時は知らないだろうか。それとも近藤さんが話したのだろうか。俺が誕生日を嫌っていることを。居酒屋の席でポツリとこぼしてしまった自分の誕生日。銀時は祝ってやるよと笑っていた。祝われる資格がないのを分かりながら俺はなんとも受容的な返答をしたのだ。その時は自分自身驚いた。しかしここで否定しなおすと勘のいい銀時は追及してくるに違いない。銀時に何もかもさらけ出されそうで怖かった。だからそのままにしておいた。

だからなのか、今日、隣には銀時がいて、そして俺は祝われている。


「ゴリさんに無理言って俺がやってもらったんだよ」

「……、」

「オメーよぉ、いつか俺に誕生日をばらした日があったじゃん。あの時祝ってやるって、俺が言った時の顔覚えてるか?」

「……いや、覚えてねぇ」

「いかにもやっちまったって顔して、泣きそうな顔して、楽しみにしとくって言ったんだぜ」


そうだったのか、まったく覚えていなかった。そもそも自分の表情なんて鏡を見ないと分からないのだから覚えているはずもない。でも、それ以前にあの時の俺は動揺していたのだ。次の言葉を考えるのに頭がいっぱいいっぱいだった。


「俺は絶対祝ってやろうと思ったね。だってさ、ムカつかない?」


何が、と言う俺の言葉より先に銀時が俺の顔を掴んだ。赤い瞳が俺をうつす。


「俺達はこんなに、お前が生まれてきたこの日に感謝してるのに当の本人はそれを受け入れようとしてねぇんだからさ」


そんなの、意地でも祝いたくなるじゃん。なんて。銀時はそう言う。


「俺は無神論者だけど、今日この日だけは感謝してる。土方が生まれてきてくれたこの日に、俺と出会わしてくれたことに、な」

「生まれてきてくれてありがとう、土方」


いつのまにか流れてきていた涙を、そっと拭われた。










さよなら、受け入れられなかった自分。









人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -