花束を一つ
小中高と一緒だった金時とは大学で別れた。俺は近くの大学に進学し、アイツはたまたま勧誘されたホストの店で働く事になった。元々アイツは話も上手いし顔もいい。ホストなんて天職なんじゃないのかという俺の思った通り、アイツはたった数ヶ月でナンバーワンに上りつめていた。
いつも二人で時間を共有しあっていた生活。初めこそ隣に金時が居ないことに違和感を感じたが、今はそれなりに慣れてきた。金時は夜の仕事、俺は昼間活動。擦れ違う時間に日に日にアイツの顔を見ることは無くなっていった。

九月も終わり、俺は部屋に置いてあるカレンダーを一枚めくった。と、めくった紙の下から現れた赤いマークにふと思い出す。十月十日、金時の誕生日だ。そういや今年の一月、まだ高校を卒業していない時、金時が俺のカレンダーに勝手に書き込んだんだったか。


「誕生日、か」


カレンダーに付けられた赤いマークを指でなぞりながら呟く。誕生日といえば、頭に浮かぶのはきまってプレゼントしてくれた花束。小さい頃に誕生日には必ず貰っていた。大きさは小さいながらも金時の笑顔と一緒に届けられるその花束が俺は好きだった。
そのことを思い出すとなんだか無性に金時に会いたくなって。俺は誕生日を口実にアイツに会うことにしたのだ。

十月十日、体育の日。今日は大学は休みだ。金時が働いている店が休みかどうかは知らないが、昼間に会いに行く分には大丈夫だろう。
この前ネットで見かけた少し話題の花屋がある。場所を調べてみると自宅からそう遠くはない場所にある事が分かった。雰囲気も良いし、俺はそこで花を買うことにしたのだ。

電車に乗って数十分。降りた駅の近くにあるその店に一歩踏み入れる。花屋なんて来る機会が今までになかったので、こんなに様々な種類の花が沢山置いてあることに驚いた。まぁ、花屋なのだから当たり前なのだが。

さてどの花を買おうかと思い、いろいろ眺めてみる。他のお客はアレとコレと花を選んで買っているのに俺はなかなか決まらない。偶然目が合った店員さんにも、ゆっくりでいいですよと言われるしまつ。そんな俺が悩みに悩んで悩み抜いた挙げ句選んだ花はなんともベタに赤いバラだった。レジに持って行くと、バラだけじゃ物足らないじゃないと言われ、花屋の店員さんがバラを中心としてアレンジしてくれた小さな花束。俺はその花束を抱えて金時の自宅へ向かった。

電車で帰る途中いろんな事を考えた。仲がよかったとはいえ、何ヶ月も会っていないといざ会う時に変な緊張をしてしまう。相手は小さい頃から知っている金時なのに。
ぐだくだ考えていると、気がついた時にはもう金時の家の前に立っていた。インターホンを押す直前で指が止まる。つい一年前までは普通に話していたのに。

(おめでとうって、言うだけだ……)

本当はもっといっぱい話したい事があった。大学の事や新しくできた友人のこと。それに金時の話も聞きたかった。だけど当初の予定を変更。プレゼントを渡したら即家に帰る事にした。

(いけ、いくんだ俺)

なかなか押せないインターホン。もう何分金時の家の前で突っ立っているのだろうか。最後の方は半ばやけくそになってインターホンを押した。


「……」


ドタ、ドタドタと階段を降りてくる音が聞こえる。金時だ。花束を後ろに回して玄関が開くのを待つ。暫く家を走り回る音が聞こえ、その音が止んでから金時が玄関から出てきた。


「はーい、どちら様?」

「…俺、だけど…」

「土方?」


出てきた金時はホストをやってる人間には見えないような格好をしていた。邪魔なのか前髪は括っているが、他は整えられてなくボサボサである。なんだか予想していた金時と違い過ぎて一時停止する俺。金時もまさか俺が来ると思ってなかったらしく、目を真ん丸くして俺を見ていた。


「中、入る?」

「いや、……今日はこれ渡しにきた、だけだから」


身体の後ろに隠していた花束を金時の前に出す。どんな反応をされるのか。考えただけで心拍数が上がっていくのを感じる。


「誕生日、おめでと」


そう言った瞬間思い切り腕を捕まれ家の中に引きずり込まれた。玄関が閉まる音がして、金時が俺を抱きしめる。
昔からスキンシップが激しかった金時。慣れていたはずのそれも久しぶりにやられたので少し驚いた声が出てしまった。


「ききき金時!?」

「土方、俺、すっげー嬉しい」


耳元で呟かれた言葉。それが本気で嬉しそうで。金時に喜んでもらえたのが分かり、俺は安心して肩の力を抜いたのだ。


「土方が花束くれたのって、初めてじゃない?」

「ああ、まあな」


満面の笑みで話してくる金時に何故か俺の方が赤面してしまう。でも金時がそこまで喜んでくれるのが嬉しくて、俺も金時を見て笑った。


「でさ、土方知ってる?」

「何をだ?」

「この花の花言葉、貴方を愛しますっていうんだぜ」

「………ッ!?」


ニヤニヤしながら言ってくる金時に返す言葉が見つからなかった。


「ま、土方からの愛の告白なら受け取るけどな」

「………え?」


予想もしなかった、予想出来るはずもない金時の言葉に金時を見たまま固まる俺。今まで金時にそんなこと言われた事がなかったからだ。それとももしかして俺の事をからかっているのか?ホストという職業は愛を囁く職業だから、癖になっているのかもしれない。
固まる俺に冗談だよという金時の軽い言葉を待ったが、その言葉は一向に現れない。変わりに、金時は俺の視線を捕らえてこう口にした。


「好きだ、土方」

「……へ、え?」

「ずっと昔から、好きだった」


俺と金時しかいないこの空間。ヒシヒシと金時の思いが伝わって来る。これは俺をからかっているんじゃない、本気だ。


「土方は、俺のこと嫌い?」


そう問われて、考えてみる。金時のことは嫌いじゃない。寧ろ好きな方だ。抱きしめられた時も嫌じゃなかったし、誰かの誕生日にここまで尽くしたのも初めてだ。それに、好きだと言われて嫌ではなかった。寧ろ嬉しかった。もしかして、俺も金時のことが好きなのか?


「嫌い、じゃない」

「じゃあ、好き?」


見つめられて顔が赤くなる。金時の赤いワインレッドの瞳を見ることができず、思わず顔を逸らした。
今日、自分でも知らなかった感情に気付かされたのかもしれない。俺は、金時のことが好きなのかもしれない。だって、友人に抱く感情にしてはこの気持ちは少々異常だから。


「俺も、金時のこと、好き……か、も」


最後の方は声にならなくて金時には聞こえなかったみたいだが、肝心な部分はちゃんと届いていたようで。俺は金時にもう一度強く抱きしめられた。


「最高の誕生日だよ、土方」


俺も金時を抱きしめ返した。




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