Pleasefeeling
その日はいつものように書類整理に追われていた。上司は相変わらずストーカーを辞める気配はないし、部下は今日も俺の仕事を増やしてくる。だが、二人ともいつもより浮かれているように見えた。俺にはその理由が分からなかった。

夜、廊下で総悟と近藤さんとすれ違った。二人とも何処かへ出かけるみたいだったけど、俺には行き先は分からなかった。近藤さんには明るい声で「トシも仕事終わったら来いよ」と言われた。総悟には「もしかして誘われてないんじゃねェんですかィ」と笑いながら言われた。俺はその言葉に何も返せない。だって、総悟の言っていた言葉は事実だから。

自室の前には書類を持った山崎が立っていた。また新しい書類か、勘弁してくれ。書類を大人しく受け取ると山崎は「やっぱり行かなかったんですね」と苦笑いしていた。


「どういう意味だ」

「あれ?隊長に聞かなかったんですか?今日巡回の途中に旦那と会ったんですけど、今日旦那の誕生日らしくて」


誕生日、その言葉にピクリと反応する。この前俺が巡回に行った時もチャイナが嬉しそうに言っていたのを思い出す。もうすぐ銀ちゃんの誕生日パーティーやるアル、と。それが今日だったなんて。
万事屋のことはそれ程嫌いではない。寧ろここのところ少し気になっていたりする。絶対誰にも言わないが。だから、こっそりプレゼントなんか買って偶然を装って渡してやろうなんて思ってたのに。


「それで誕生日パーティーに来ないかって言われたんですよ、局長と副長も一緒にって。俺はやることいっぱいあるんで断ったんですけど。副長、隊長に言われませんでしたか?」

「聞いてねぇ」


まさか万事屋が俺を誘ってくれていたなんて。こんないい機会そうないだろう。総悟の野郎後でぶっ殺す。


「じゃあ、今から行ってくればどうですか?まだ間に合いますよ」

「……いや、いい」


でも冷静に考えてみると、いくら万事屋が誘ったとはいえ俺が行くときっと空気が悪くなる。だってあくまでも俺と万事屋は犬猿の仲だ。現に会えば喧嘩ばかりしている。万事屋にも、冗談のつもりだったのにマジで来たの?って顔をされたら確実に俺はヘコむ。一時のテンションに身を任せてプレゼントを買ってしまったものの、やはり渡すのは難しそうだ。


「でも副長、プレゼント買ったんでしょ?」

「は?」

「いやだからプレゼン……あ、」

「山崎テメェ何で知ってんだァァァァ!!」

「すみません!!だって副長妙に浮かれてたから気になって尾行……ぎゃあああああ刀はやめてェェェ!!」


山崎をぎたぎたにした後、自室の引き出しを開ける。そこには可愛らしくラッピングされた小さな袋が入っていた。それを取り出してため息をつく。なんでこんなもの買っちまったんだろう。


「ふ、ふくちょ、行くだけ行ってみたら、どうです…?ポストの中に、入れるだけ、とか……」

「ポストの中、か」


確かに、それなら万事屋に会わなくてすむしプレゼントを渡せる。まあ、誰からか分からないっていうのが問題だが。


「……じゃあ、行ってくる」

「はい、行ってらっしゃい」




……と言われて出てきたはいいものの、いざ万事屋の玄関の前に立つと中から楽しげな笑い声が聞こえてきて。やっぱりこんなもの貰ってもうれしくないよなと思い帰ろうとしたその時だった。


「あ!やっぱり土方だ!」

「よ、万事屋!?」

「来ると思ってたんだよねぇ」


いきなり玄関のドアが開いて万事屋が出てきたと思ったら、肩に腕を回される。万事屋から酒の匂いが漂ってきて、相当酔っていることが分かった。そのままズルズルと居間まで引きずられていく。周りの視線が痛くてとても顔を上げられなかった。


「珍しいお客さんだねィ、銀時」

「ああ、俺が誘ったんだ」


座れよと言われたがどうみてもソファーの空いている場所は万事屋が座る為の場所で。やんわりと断りを入れてから俺は壁に寄り掛かった。
万事屋はまた輪の中に戻っていて、皆楽しそうにしていた。よく周りを見てみると沢山のプレゼントが置かれてある。沢山の人とプレゼントに囲まれた楽しそうな万事屋を見て、なんだか自分が馬鹿らしくなってきた。ポケットの中に入れてきたプレゼントを取り出して眺める。こんなものを貰って万事屋は本当に喜ぶだろうか。俺から、プレゼントなんか貰って…。
俺は万事屋にとって大勢の中の一人で。特に意識される訳でもなく、寧ろ嫌われているというのに。今日はたまたま酒も入っていて気分が良かっただけなのだろう。


「……」


俺は隊服のポケットの中に戻した小さな袋を握り潰した。




***




「……あれ、土方は?」


ついつい話しに夢中になっていて土方のことをすっかり忘れていた。てっきり沖田君やゴリラと話しているものだと。だけどその姿は何処にもない。
まさか帰ってしまったのか?もう一度見渡してみてもやはり土方の姿は何処にもなかった。

たまたま沖田君とジミーに道で会った時、たまたま気分が良かったので自分の誕生日パーティーに誘ってみた。それから土方を誘ってみたらアイツどんな顔するかなーって気になったから沖田君に土方も来てもいいよって言ってみた。普段は仲が悪いけど、たまには普通に接してみるのもいいかももと思って。
俺は思いたったようにソファーから立ち上がった。なんだか土方を追いかけなくてはならない気がして。皆は酔い潰れてヘロヘロ状態だ。神楽はもう寝ている。これなら俺が抜け出しても分からないだろう。
万事屋を出て、駆け足で階段を下りた。

外の冷たい風が酒で良い感じに温まった身体に当たる。心地好いその温度に思わず目を閉じた。
土方の姿はもう見えない。きっと帰ってしまったのだろう。でももう少しだけ見てみようと思い足を動かした時、コツンとブーツの先に何かが当たった。


「あれ、これは」


手に取って見てみるとどこかで見たような袋。


「あ」


これは確か、土方が持っていなかったか?まだ万事屋に居たときに、ポケットから取り出して。はじめは俺への誕生日プレゼントかと思ったけどすぐにポケットに戻していた。くれないのかと思いガッカリしていたのだ。
てか、何で土方誕生日プレゼント用意できたの?神楽が少し前に喋ったのかな。それか今日沖田君に誕生日パーティーがあるって知って急いで用意したのかな。それならありえる。
でもまさか土方が俺の為にプレゼント買うなんて意外だ。そう思いながら袋を開けると中には定春によく似た銀色の犬のキーホルダーが入っていた。
落としたのか、それとも捨てたのか。真相は分からないが土方が俺にくれようとしていたのは事実で。
俺の足は無意識に屯所の方へと運んでいた。




***




自室で煙草をくわえる。ポケットの中には何もなかった。
捨ててきたのだ、あのプレゼントが入った袋を。それに黙って帰って来てしまった。せっかく誘ってくれたというのに。今日は喧嘩も何もなく普通に話し掛けてくれたというのに。


「馬鹿だ、俺」

「何が馬鹿なの?」

「!!」


いきなり後ろから声が聞こえて肩がビクリと上がる。急いで後ろを振り返るとそこには万事屋が立っていた。自室のドアを開けられたのも、後ろに立たれたのも全く気付かなかったから、俺の心臓はバクバクだ。


「よ、万事屋。どうした…?」

「なんで勝手に帰ったの?」

「え、あ、それは」

「なぁ、なんで?」


俺の目を覗き込んでくる万事屋の目は純粋に疑問を追求していて。思わず目をそらすと万事屋の手の中にあるものが視界に入って、俺は目を見開いた。
それは俺のよく知っているもので。だってそれは、俺が捨ててきた物だったから。


「万事屋、それ…」

「ああ、道で拾ったんだ」

「なんで」

「だってこれ、土方のだろ?」

「……」


なんで俺のだって知っているんだ、どうして。何も答えない俺に万事屋はさらに近づいてきた。
ふわふわの銀髪が俺の目の前にある。酒の匂いと混じってほんのり甘い香りが漂ってきた。この匂いはおそらく万事屋自身の匂いで、甘党なコイツらしいと思った。


「これ、俺への誕生日プレゼント?」

「っな!!」

「図星か」


しまった、あまりにもピタリと当てられたから思わず声を上げてしまった。すぐに口を手でおおったが、万事屋にはハッキリと聞かれてしまっていた。でも万事屋は差ほど驚いてはいない、まるで始めから俺が驚くことを分かっていたかのように。なんだか俺一人だけ落ち込んだり焦ったり、完全に万事屋のペースにのまれている。


「そうだよ、テメェへのプレゼントだよっ。悪ィか!!」


開き直って大声で叫んでみる。万事屋は何て返してくるのだろう。笑って流されるのか?本気で引かれるのか?どのみちいい答えではないだろう。いや、でも万事屋は今酔ってるんだよな。そしたらふざけ半分で受け取ってくれるかもしれない。
俺がグルグルと思考を巡らせているとき、万事屋がぽつりと何かを呟いた。


「嬉しい……」

「は?」

「いや、だから嬉しい」

「……テメェ酔って頭でもイかれたのか?」

「酔いはだいぶ前からさめてますぅ」


予想していなかった答えに目の前にいるのは本当に万事屋なのかと疑問を覚える。疑いの視線を向けると万事屋は俺にハッキリと分かるようにため息をついた。


「俺は嬉しいよ?まさか土方が俺にプレゼントくれるなんてなァ。あの土方が、」

「……あの、って何だよ」

「だって、会う度に喧嘩してさ?俺嫌われてんじゃねぇかって普通思うじゃん。でも好かれてた」

「好いてねぇよっ」

「えー、本当?」


くすくす笑いながら言ってくる万事屋を一睨みしてやる。内心は嬉しさでいっぱいだが。
だって万事屋、プレゼントもらって、嬉しいって。もうすぐフリーズしそうな俺の頭。それに壊れたのかと思う程激しく動く心臓。やめろ、これ以上笑いかけないでくれ頼むから。だけどその願いも虚しく万事屋は笑顔でハッキリこう告げた。


「ありがとな、土方」




(end)


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