十月十日はアイツの、坂田銀時の誕生日だ。数日前から何やら期待を込めた眼差しで俺を見てきて、十月十日って何の日か知ってる?とかぬかしてきやがったから、魚の日だろ?って答えてやったら拗ねた。正直うっとおしかったが、まぁ俺もそこまで思いやりの心を持っていない訳ではない。ちゃんと当日には誕生日プレゼントを渡してやろうと思ったのだ。
さて、屯所に帰って悩みながら副長室のドアを開けようとしたが既に開いていた。不審に思って中を覗くと総悟が仁王立ちして何やら怪しげな笑みを浮かべながら俺を見た。こういう時、絶対に俺にとって最悪な事しか考えていないことは今までの経験上分かっている。俺もそこまで馬鹿じゃない。開かれた総悟の口からどんな言葉が飛び出すのか、俺は総悟の目をじっと見た。
「旦那へのプレゼント、決まりやしたかィ?」
「……」
何でこうコイツはどこまでも鋭いのだろう。ただニコニコと爽やかな笑顔はあきらかに俺の為に何かをしてあげようという良心から来るものではなくて。
「テメェには関係ねーだろ」
「そんなこと言っていーんですかねィ?」
「……何でだよ」
「誕生日ですぜ?どうせ何か買って渡せばいいと思ってんでしょ」
「……」
言い返す事はできなかった。だってその通りだったから。甘味には目がない男だ。そこらの人気な店のケーキでも買って渡せばいいと思っていた。
総悟は俺が何も言い返さない事で自分が言ったことが事実だと確信したようで。ほらやっぱりと言わんばかりの顔をしていた。
「んだよ、悪ィかよ!」
「悪いに決まってますって。誕生日ですぜ?」
「……んじゃあ何にすりゃあいいんだよ」
「そりゃあアレですよ」
総悟はどこに隠していたんだか、一冊の本を俺の目の前に差し出した。
「誕生日に貰いたいケーキ25選…?」
「これ見て頑張りなせェ」
「ちょ、ちょっと待て!!」
「んだよいちいちうるせーなァ」
「これ、俺が作るのか…!?」
「あんた以外に誰が作るんですかィ」
じゃ、頑張ってくだせェと総悟は本と俺だけ残して去って行ったのだ。嵐が去っていった後に残ったのは静寂だけだった。
***
「で、どうすりゃいいんだよ、コレ」
見慣れない料理道具、目の前に広がるケーキの材料。俺はその前で唸り声をあげていた。
本に載っているケーキの中から一番簡単そうなのを選んだ。材料と道具を買うのは全部山崎に押し付けた。失敗してもいいようにと何回分かの材料を買ってきた山崎は一発殴っておいた。俺が失敗する前提で材料を買ってくるなんて、山崎のくせにむかつく。まあ俺も自分が一回で成功するなんて思っていないが。
料理なんてあまりしたことない。ましてや菓子類なんて全くだ。だが途中で投げ出しては総悟に何を言われるか。それだけはプライドが許さない。
「……山葵でも入れてやろうか」
どうせ上手く作れないのであれば最初から味をぶっ壊してやろうか。今までアイツにされたセクハラの数々を考えればこれくらいの仕返しはしてもいいだろう。いやしかし誕生日だ。やっぱり真面目に作ろう。
そう思って作業に取り掛かり初めてから時間はいくら経過しただろうか。俺は初めのスポンジ作りで躓いていた。
駄目だ、これは俺には難しすぎる。店のケーキ職人をこれから尊敬することにした。だって、どうやってもあんなにフワフワに膨らまないし。形は崩れてボロボロになるし。これは無理だって、マジで。料理とは無縁な俺には絶対に無理だ。
「もう駄目だ……」
キッチンでうなだれる。目の前には失敗したスポンジの数々。すまねぇな、今度はもっとまともな奴に美味しく作ってもらえ。
「副長ー?できてますか……ってギャァーー!!」
そんな時ひょっこり顔を現した山崎。調度いい所に来たと言わんばかりに開いていた本を投げつけてやった。見事に角がクリーンヒットしたらしく、山崎は涙目で頭を押さえている。
「こんなもん出来るわけねェだろ死ね山崎」
「八つ当たりはやめて下さいよぉ〜」
投げつけられた本を取り、付箋紙の付いたページを開く山崎。何やら興味深そうにページを眺めている。しばらくの沈黙の後山崎は顔をあげて口を開いた。
「よかったら手伝いましょうかブフウッ」
「むかつく」
こんな奴に手伝ってもらうなんて。今度は側にあったまだ使っていないボウルを投げつけた。
***
ふぅ、と山崎は息を吐いた。山崎がヘルプに加わったことで随分とスムーズに作業は進んだ。今俺の隣でやりきった顔をしている山崎がむかつく。やっぱりコイツは何をしてもむかつくんだな。
「いやぁ、俺ケーキとか作るの初めてだったんですよ。上手くいってよかった」
「……」
嘘だろ。コイツ今何て言った。ケーキ作るの初めてだと?それにしちゃあコイツの要領の良さは異常だった。
作るのはあくまでも副長ですからと言ってあまり手を出すことは無かったし、分かりやすいように指示を出してくれその上失敗はフォローしてくれた。
見た目は俺にしちゃあ上出来だ。味の保証はしないけど、食べるのは銀時だし、俺食べないし。
「アレですよ、まずくても愛だけは精一杯詰め込んだって言えばきっと旦那コロッと騙されてくれますよ」
だって副長にベタ惚れなんですからと言った山崎は、今度も俺に殴られると思ったのか足早にその場から去って行った。
「………」
このケーキを、自分が作ったと言って渡したらやっぱりあの男は喜んでくれるだろうか。少しは自惚れてもいいのだろうか。
「今回だけ山崎には少し感謝だな」
出来上がったケーキを箱に詰めて副長室へ向かった。その途中山崎のまずくてもという言葉を思い出して、やっぱりむかついた。
誕生日当日、ケーキを渡しに行った土方に銀時が嬉しさのあまり抱き着いたのは言うまでもない。
ただケーキを一口も食べなかった土方に、はたして美味しかったのかまずかったのか、その結果を知ることはなかった。
「愛があればどんな事でも成し遂げられる」
土方が帰った後青白い顔をした銀時が新八にそい言っていたのを土方は知らない。
(end)
後書き→
さて、屯所に帰って悩みながら副長室のドアを開けようとしたが既に開いていた。不審に思って中を覗くと総悟が仁王立ちして何やら怪しげな笑みを浮かべながら俺を見た。こういう時、絶対に俺にとって最悪な事しか考えていないことは今までの経験上分かっている。俺もそこまで馬鹿じゃない。開かれた総悟の口からどんな言葉が飛び出すのか、俺は総悟の目をじっと見た。
「旦那へのプレゼント、決まりやしたかィ?」
「……」
何でこうコイツはどこまでも鋭いのだろう。ただニコニコと爽やかな笑顔はあきらかに俺の為に何かをしてあげようという良心から来るものではなくて。
「テメェには関係ねーだろ」
「そんなこと言っていーんですかねィ?」
「……何でだよ」
「誕生日ですぜ?どうせ何か買って渡せばいいと思ってんでしょ」
「……」
言い返す事はできなかった。だってその通りだったから。甘味には目がない男だ。そこらの人気な店のケーキでも買って渡せばいいと思っていた。
総悟は俺が何も言い返さない事で自分が言ったことが事実だと確信したようで。ほらやっぱりと言わんばかりの顔をしていた。
「んだよ、悪ィかよ!」
「悪いに決まってますって。誕生日ですぜ?」
「……んじゃあ何にすりゃあいいんだよ」
「そりゃあアレですよ」
総悟はどこに隠していたんだか、一冊の本を俺の目の前に差し出した。
「誕生日に貰いたいケーキ25選…?」
「これ見て頑張りなせェ」
「ちょ、ちょっと待て!!」
「んだよいちいちうるせーなァ」
「これ、俺が作るのか…!?」
「あんた以外に誰が作るんですかィ」
じゃ、頑張ってくだせェと総悟は本と俺だけ残して去って行ったのだ。嵐が去っていった後に残ったのは静寂だけだった。
***
「で、どうすりゃいいんだよ、コレ」
見慣れない料理道具、目の前に広がるケーキの材料。俺はその前で唸り声をあげていた。
本に載っているケーキの中から一番簡単そうなのを選んだ。材料と道具を買うのは全部山崎に押し付けた。失敗してもいいようにと何回分かの材料を買ってきた山崎は一発殴っておいた。俺が失敗する前提で材料を買ってくるなんて、山崎のくせにむかつく。まあ俺も自分が一回で成功するなんて思っていないが。
料理なんてあまりしたことない。ましてや菓子類なんて全くだ。だが途中で投げ出しては総悟に何を言われるか。それだけはプライドが許さない。
「……山葵でも入れてやろうか」
どうせ上手く作れないのであれば最初から味をぶっ壊してやろうか。今までアイツにされたセクハラの数々を考えればこれくらいの仕返しはしてもいいだろう。いやしかし誕生日だ。やっぱり真面目に作ろう。
そう思って作業に取り掛かり初めてから時間はいくら経過しただろうか。俺は初めのスポンジ作りで躓いていた。
駄目だ、これは俺には難しすぎる。店のケーキ職人をこれから尊敬することにした。だって、どうやってもあんなにフワフワに膨らまないし。形は崩れてボロボロになるし。これは無理だって、マジで。料理とは無縁な俺には絶対に無理だ。
「もう駄目だ……」
キッチンでうなだれる。目の前には失敗したスポンジの数々。すまねぇな、今度はもっとまともな奴に美味しく作ってもらえ。
「副長ー?できてますか……ってギャァーー!!」
そんな時ひょっこり顔を現した山崎。調度いい所に来たと言わんばかりに開いていた本を投げつけてやった。見事に角がクリーンヒットしたらしく、山崎は涙目で頭を押さえている。
「こんなもん出来るわけねェだろ死ね山崎」
「八つ当たりはやめて下さいよぉ〜」
投げつけられた本を取り、付箋紙の付いたページを開く山崎。何やら興味深そうにページを眺めている。しばらくの沈黙の後山崎は顔をあげて口を開いた。
「よかったら手伝いましょうかブフウッ」
「むかつく」
こんな奴に手伝ってもらうなんて。今度は側にあったまだ使っていないボウルを投げつけた。
***
ふぅ、と山崎は息を吐いた。山崎がヘルプに加わったことで随分とスムーズに作業は進んだ。今俺の隣でやりきった顔をしている山崎がむかつく。やっぱりコイツは何をしてもむかつくんだな。
「いやぁ、俺ケーキとか作るの初めてだったんですよ。上手くいってよかった」
「……」
嘘だろ。コイツ今何て言った。ケーキ作るの初めてだと?それにしちゃあコイツの要領の良さは異常だった。
作るのはあくまでも副長ですからと言ってあまり手を出すことは無かったし、分かりやすいように指示を出してくれその上失敗はフォローしてくれた。
見た目は俺にしちゃあ上出来だ。味の保証はしないけど、食べるのは銀時だし、俺食べないし。
「アレですよ、まずくても愛だけは精一杯詰め込んだって言えばきっと旦那コロッと騙されてくれますよ」
だって副長にベタ惚れなんですからと言った山崎は、今度も俺に殴られると思ったのか足早にその場から去って行った。
「………」
このケーキを、自分が作ったと言って渡したらやっぱりあの男は喜んでくれるだろうか。少しは自惚れてもいいのだろうか。
「今回だけ山崎には少し感謝だな」
出来上がったケーキを箱に詰めて副長室へ向かった。その途中山崎のまずくてもという言葉を思い出して、やっぱりむかついた。
誕生日当日、ケーキを渡しに行った土方に銀時が嬉しさのあまり抱き着いたのは言うまでもない。
ただケーキを一口も食べなかった土方に、はたして美味しかったのかまずかったのか、その結果を知ることはなかった。
「愛があればどんな事でも成し遂げられる」
土方が帰った後青白い顔をした銀時が新八にそい言っていたのを土方は知らない。
(end)
後書き→