すいーとスイート!
「十月、か」


学校の帰り道、茜色に染まっている空。ポツリとそんなことを呟いた。

十月といえば、同じ団地に住んでいる坂田銀時の誕生日。小さい頃はいつも一緒で、でも中学からはそんなに時間を共有することもなくなった。高校に至っては話すことすらない。
家は近いのに。自宅に入る前に銀時の部屋をチラリと見上げる。カーテンを通しての明かりが見えないのでまだ帰っていないのだろう。きっと友人と遊んでいるのだ。

俺は昔からちっとも変わらない。あいつは、銀時は俺を置いて変わって行くのに。いや、俺を置いてっていうのもおかしいか。

俺は銀時が好きだった。認めたくないがあいつは俺より強い。しかもいい加減に見えるのに頼りがいのある言わばヒーローみたいな奴で。俺はそんなあいつに惹かれた。
男同士だし、俺と違って人気のあるあいつ。こんな気持ちは迷惑に決まってる。だから俺はこの気持ちを押し込める事にした。だけど、誕生日のプレゼントだけは昔から渡す事にしている。でもそれも今年で最後だ。
俺もあいつも高校生。数年後にはそれぞれ知らない道へと歩んでいるだろう。
毎年渡す誕生日プレゼントは、まだ俺が銀時を諦めきれていない証拠。


「……もう、終わりにしなきゃな」


早くこの気持ちに終止符を打たなくてはと焦る。だけどせめて誕生日まではこの気持ちが俺の中に居ることを許して欲しい。
いつも俺の前を歩いていたあいつ。風に揺れて輝く銀髪が脳裏に浮かんで消えた。



***



誕生日、どうせ渡すのはこれで最後なんだからと今までやってこなかった事をしようと思った。俺は料理が大の苦手だ。だけど銀時は甘いものが好き。将来糖尿病になるんじゃないかって思うくらい食べる。だから今まで避け続けてきたケーキ作りに挑戦してみたのだ。


「ま、まぁ俺にしちゃあいい出来栄えだろ」


ずり落ちかけた眼鏡を直す。絆創膏だらけの手にはもう何も言うまい。キッチンが爆発しなかっただけマシだと思う。爆発しなかっただけで、失敗作やらなんやらで既に目も当てられない状況になってはいるけれど。
ケーキだけは何とか目は当てられる状態になった。味はどうか知らないが。美味しくなくてもまずくなければいい。食べられる程度にさえなってくれていればよかった。

ケーキの形を崩さないようにそおっと冷蔵庫の中に入れる。銀時の誕生日は明日だ。絆創膏だらけの手をさすりながら明日の事を考えた。



***



本番と脳内実践は全然違う。昨夜あれ程渡し方を考え、対応の仕方まで考えていたのに。いざ銀時の家の前に立ってみたら緊張で頭が真っ白になってしまった。
高校生が一人大きな箱を抱えて家の前でずっと立っているなんて不審過ぎる。だけどなかなかインターホンを押せなくて。何だかそろそろ泣きたくなった。


「……もしかして、十四郎?」

「え?」


動いてくれない手を一発殴ろうかと本気で考えた時、後ろから聞き慣れた、だけど最近は全く聞いていないあいつの声が聞こえた。


「ぎ、銀時!?」

「そうですけど、銀さんですけど」


慌てて後ろを振り向くと銀時がそこに立っていた。てっきり家に居るものだと思っていたから、まさか外出しているなんて。はっとしてケーキの入った箱を隠すが既に遅し。銀時の視線の先にはケーキの箱が。


「十四郎、それ何?」

「あ、いや、これは……えっと………け、ケーキ」

「ケーキ!?十四郎が、俺に?」

「そ、そうだよ!お前今日誕生日だろっ!だから……!」


あまりに銀時が珍しそうに眺めているから、その視線に耐え兼ねて俺は銀時にその箱を押し付けてすぐ側にある自宅へ全力疾走。後ろで銀時が何か言っていたがもう振り向けない。
玄関から自宅に入ってそこで脱力。

久しぶりに話したうえに緊張してしどろもどろになって最後にはケーキを押し付けて帰ってきてしまった。今更ながら恥ずかしくなって膝に顔を埋める。


「あ、おめでとうって言ってない……」


そういやと気づいたその事実にもうどうしようも出来ない現実。俺はひっそりとため息を吐いた。




***




「………」


久しぶりに会った十四郎から渡されたケーキ。俺が何も言える時間もなく十四郎は走り去ってしまった。
今日は俺の誕生日だ。だからケーキをくれたのだろう。あいつは毎年俺への誕生日プレゼントだけは欠かさなかったから。普段ツンツンな十四郎がデレを見せる唯一の時。


「にしても、十四郎って料理出来たのか?」


箱からケーキを出すと、店で売っているそれには程遠いがまぁケーキと認識できるくらいのケーキだ。調度外から帰ってきて糖分不足だったし。
そう思いながら台所に行ってフォークを取り一口パクリ。


「………んめぇ」


何コレ、すっげー美味いんだけど。見た目はアレだけど味は絶品。え、うそ、俺こんな美味いケーキ食ったことねぇんだけど。

でも確か十四郎って不器用じゃなかったっけ?そういやケーキ渡す時にちらりと見えた十四郎の手。今思い返してみると絆創膏だらけだった。きっとこのケーキを作る為に怪我したに違いない。

(……なんか、アイツ可愛くねぇか…)

俺の為に、ケーキまで作って、それで。
眼鏡越しの十四郎の綺麗な目が真っすぐに俺を見て。銀時って、言って、ケーキを……。


「か、可愛い…」


今まで一度も思ったことはなかったけど、一度意識し始めると思考は止まらない。しかもケーキ美味しいし。いや、決してケーキが美味しいから十四郎を好きになった訳じゃなくて。
あのいびつな形のケーキを見ると俺の為だけに作ってくれたと思えて。

(なんか、キュンとするんだよなぁ…)

いつもは十四郎の方が俺より早く家を出て学校に行ってるけど、明日は十四郎に合わせて家を出よう。それでケーキ美味かったって伝えよう。


「どんな顔すっかなぁ…」


ああ、明日が待ち遠しい。




(end)


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