月を友にて あかす頃 | ナノ

寄り添う花がふたつ



早めに授業が終わった放課後、4人で街まで出かけた。たいていのものは学園内で済ませられる故に普段は外へ出ないせいか、ただの街並みやショッピングモールが新鮮に感じられる。気が置けない級友たちと一緒なら尚更に、楽しいものだ。ファーストフードで軽く食事を済ませたあと、これからどうするかという話になったのだが、百田と春川は用事がある、と言い出した。

「そういうわけでオレらは帰るからな。上手くやれよ終一!よーし帰るかハルマキ!」

そこで肩を回したら真っ赤になった春川に投げ飛ばされた百田を見て、上手くやるべきはそっちじゃないかな百田君…と内心他人事のように思った最原だった。

「最原くん、どうしよっか?」

赤松が少し困ったように問いかける。まだ全然日も暮れていない昼下がり、寄宿舎に戻るには勿体無い時間だ。何より帰りがたい気持ちが最原にはある。もう少しだけでも、と。

「赤松さんがよければ…少し散歩でもしない?」
「うん、いいよ!」

それからは何とはなしに2人で歩いていると、大きめの公園に通りがかった。川の下流に面するそこは緑が豊かなところだ。行ったことはなかったが、何かのニュースや雑誌で見たことがある気がする。そういえばもう桜咲いてないかな、と赤松が言うので見に行くことにした。しかし。

「…まだまだ咲いてないね」
「…みたいだね」
軽く見渡してもうっすらと蕾がある木々が並んでいるだけだった。まだ早かったようだ。

「でも…せっかくだから、歩こっか。たまには運動しないとね!」
「それは構わないけど…元気だね、赤松さん」
「…そうじゃないんだけどな」
「え?」
「何でもないよ」

公園内は広く、ジョギングコースにもなっているらしい遊歩道をゆっくり歩く。片側の桜の木らしいそれは咲き誇ってないが、もう片側の花壇にはちらほらと小さな花が咲いていた。

「うーん、春の曲が弾きたくなっちゃうなあ」
「春の曲って、どんな?」
「えっとね、…曲名で言ってもわからないかな、こういうのなんだけど」

赤松が小さくうたう鼻歌は、どこか聞き覚えがあるようなないような、わからないが楽しい気持ちが増した。赤松が奏でる音は、最原の中の色んな気持ちを増幅させる。いつもそうだった。ここにピアノがあったら、なんて思う自分はピアノバカが移ってるのだろうか。弾きたいのではなく弾いて欲しいのだけれど。
花々がきれいだなあと2人で和んでいると、突然茂みから猫が飛び出してきた。

「わ、わ!」
「赤松さん!」
よろける赤松の手を最原は咄嗟に掴んで支えた。

「だ、大丈夫…?」
「う、うん…」
「この公園、猫が多いね…さっきからよく見かけるから気を付けて」
「そ、そうだね…」
妙にそわそわと落ち着かない様子で、赤松は自分のコートの裾を握っている。

「…?……!!あ、ごめん僕…!」
赤松の手を取ったままだったことにようやく気付いた最原が慌てて離れようとした、が。

「ま、待って!」
「えっ…?」
「最原くんがいいなら…このままでもいいかな」
「…………」

冷たい風が心地よく感じるくらいには頬が熱くなった。もちろん最原が断る理由などなく、出来る限り優しく握りなおした。
ジョギングをしているおじさん、犬の散歩しているお姉さん、追いかけっこをしている子供たち、様々な人とすれ違いながら2人で並木道を歩く。会話は少ない。つないだ手と、ときおりふれあう相手のからだを意識しすぎてこれ以上ないほど緊張しているのに、最原は今この瞬間どうしようもなく幸福を感じていた。にゃあんとどこかで猫が鳴いていて、太陽の光が反射してきらきらと川が煌めいていて、川面で鳥が羽を休めていて、のんびり歩く老夫婦ともすれ違って、こんな穏やかな空間で隣に赤松がいるということが、とても。

(…しあわせだなあ)


「ねえ、最原くん」
「…あ、なに?」
「桜が咲いたらさ、そのときはまた一緒に見に来たい…な」
「え、」
「あ、も、もちろん春川さんや百田くんも一緒に!ね!」
「う、うう、うん!もちろんだよ!」

そのとき未開花の並木道に、ピンク色に染まりながら寄り添う花がふたつ、咲いたようだった。



お題「桜」
170302


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