月を友にて あかす頃 | ナノ

僕のこころをつくるんだ



これとつながってます。


捜査をしていたらすっかり夜も更けそうになっている。最原が通りがかりの教室の時計で時間を確認すると、もう少ししたら夜時間の知らせが鳴るであろう頃だ。図書室のように、他にも隠された扉や通路があるのではないかと調べていたのだが、収穫はなかった。
仕方ないので寄宿舎に戻ることにした。道中でも観察することを止めない。もう一つ、密かに探しているものがあるのだがそれもなかなか見つけられなかった。

「赤松さん…どこで集めてるのかな…」
ポツリと呟いた言葉に、
「え?何を?」
という返答があった。捜査に少し疲れぼうっとした頭は何も考えずに言葉を続ける。

「あのメダルっぽいもの…ガチャガチャで使えるみたいだけど…」
「ああ、あれ!」
「うん…って、え?…っうわあ!?赤松さん!?」

いつの間にか隣にいた相手をようやく認識して、最原は思わず玄関の扉にかけていた手を離して大声を出してしまった。

「…そ、そんなオバケにあったみたいに驚かなくても…失礼しちゃうなあ最原くん」
「ご、ごめん…」

理不尽に閉じ込められたこの学園で、最原が唯一信じたいと思った少女―赤松楓。いくら彼女と言えど今まで一人だった空間に突然現れたら驚くのも仕方ない、と思うがとりあえず謝った。苦笑する赤松はこっちこそ驚かせてごめんね、と両手を合わせた。

「私も寄宿舎に戻るところだったんだ」
「今から?こんな遅くまで出歩いてたら危ないよ」
「うん…でもね、自分の研究教室でピアノ見てたら、つい…」
「…弾いてたの?」

2階も調べていたがピアノの音など聞こえなかったはずだが。赤松は静かに首を振った。

「ううん。ここから出たらいくらでも弾けるもんね!…でも、やっぱりちょっとぐらいいいかなって…悩んでたらこんな時間に…」
「そ、そんなに悩むぐらいなら弾いたら良かったんじゃないかな…」

さすが超高校級のピアニスト、と言うべきだろうか。こんな状況であれやはりピアノを前にすると弾かずにはいられないものなのだろうか。そういえば、自分の探偵業のことは聞かれたが赤松のことは聞いていない。今度、聞いてみようか。

「うーん。そんな場合じゃないしね、他にやるべきことはあるし!最原くんは、メダル探してたの?どうして?」
「あ、えーっと…」

そこを突っ込まれるとは思っていなかったため言葉に詰まる。うっかり口をすべらしてしまったのが運の尽きか。

「あのメダルならは教室でもどこにでも落ちてるよ!」
「え、でも見つからなかったけど…」
「えっ…も、もしかして私が取りつくしちゃったのかな…そうだ!」

赤松がスカートのポケットに手を入れて、何かを取り出した。鈍茶色のそれを掴んでこちらに向ける。

「ほら、あったよ!はい」
「え…と…」
「あれ、いらない?それとも一枚じゃ足りない?」
「そ、そうじゃなくて…自分で見つけないとあまり意味がないというか…」
「意味?」

首を傾げる赤松に、最原は観念してワケを話すことにした。もちろん帽子は深く被って。

「その…赤松さんがプレゼントくれたでしょ?僕も何かお返ししたいなって思って…それで…」

キミに似合うと思うから、とそれだけの理由で渡されたカフスボタンは今、最原の腕で光っている。疑心暗鬼が渦巻くこの生活で、純粋な厚意が最原はとても嬉しかった。呑気に喜んでいる場合ではないけれど、だからこそ、だ。自分も何か気晴らしになれるものをあげられたら。自分がそうであったように、少しでも彼女の気を晴らせたら、とそう思った。確か購買部で引き当てたと言っていたので、ならば自分もそれで、と決めたはいいが、肝心のガチャガチャを引くためのメダルは見つけられずじまいであったのだ。だからといって赤松からもらったら本末転倒である。

「そ、そうなんだ…」
気恥ずかしくて俯く最原に、戸惑い気味の声が耳に届く。引かれてしまっただろうか、と不安になったが、名前を呼ばれて恐る恐る顔を上げた。狭い視界に映る柔らかい微笑み。

「それ…つけてくれてるんだね、最原くん」
それだけで、その気持ちだけで嬉しいよ。

―ああまたひとつ、キミからもらってしまった。



お題「宝物」
170610


Clap
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -