月を友にて あかす頃 | ナノ

キミが胸を焦がすから



「ほらほら、遠慮なんてしないで最原ちゃん」
「いや、遠慮とか、そういう問題じゃないから…!」

押さないでよ王馬くん!と最原が言おうと王馬はぐいぐいと背中を押すのだった。このやり取りを繰り返しながらとうとうたどり着いてしまった。―女子の楽しそうな声が聞こえる、男子禁制の場に。


この学園生活にも不本意ながら慣れてきたとも言えるころ、突如モノクマが皆の集まる食堂に現れた。「今日はオマエラにいい知らせを持ってきたよ!」といつもの調子で言い出すがその言葉にワクワクするものなどいない。緊張感が走る一同をよそに、モノクマはごそごそとどこからか「黄色いオカリナ〜!」とどこかで聞いたことがあるような口調で取り出した。曰く、どうやらそれは中庭にあるツタで覆われたところを開けるもの、らしい。その奥にはすっかりマンネリしてるオマエラをドキドキさせるものがある、と。「いやあボクって優しいなあ!じゃあ有効活用してね!」と最原に渡して去っていったのだった。
何かの罠ではないかと思いながらも中庭に行き、道具を使って開かれた奥には何と、プールがあったのだった。


「せっかくの機会なのに臆してどうするのさ!ロマン砲をどこにやったの最原ちゃん!」
「そんなもの持ってないから!」

その後、女子たちがはしゃいでさっそく入っていったのだった。もちろん男子は抜きである。近づこうものならネオ合気道でたたき込みます、と凄んだ茶柱がいるのだからこの周辺にいることすら恐ろしい。それなのに王馬はウキウキしながらオレたちも入りに行こうよ、などと言う。必死の抵抗も虚しく(2重の意味で)押されて来てしまった。王馬もだが、まるで誰かの意志が自分を動かしているかのように思う。キーボではないが、内なる声が囁いてる。男のロマンがそこにあるだろう、と。最原はブンブンその思考を振り払う。中には赤松だっているのだ。不誠実なことはしたくない。

「別に覗こうって言ってるわけじゃないのにー」
「だいたい、何で僕なの?他の人を誘えばよかったじゃないか…」
「んーそうだね、最原ちゃんが一番つまらなくない反応しそうだからね…」
「それって、どういう…」
「最原くん?」

と、中から一人の少女が姿を現した。途端、最原は言葉を失ってしまった。

「あ、赤松さん!?何で…」
「えっとね、何か最原くんの声が聞こえたような気がしたから様子を見に来たんだけど…」
「さっすが超高校級のピアニストだね赤松ちゃん!オレもいるけどね!」
「王馬くんも、どうしたの?こんなところで」
「うん、女子だけプールを使ってズルいなって思って来たんだけど」
「あっ、ごめんね占領しちゃって…」

2人の会話が、確かに聞こえているが頭に入ってこない。最原の探偵業で鍛えられた観察眼が、あますところなく彼女を見つめてしまう。つい先ほどまでプールに入っていたのだろう、濡れた肌。いつもと違って上に結ばれた髪の毛。ベビーピンクのフリルがあつらわれた真っ白な水着は、ワンポイントに音符が入っていた。

「そういえばその水着って持ってたの?」
「ううん。モノクマが支給してくれたんだ。どれもサイズぴったりなのがちょっと怖くなったけど…せっかくだから」
「なるほどね!似合ってるよ〜ねえ最原ちゃん」
「……」
「最原くん?大丈夫…?」

ずっと手で口元を覆ったまま黙っている最原を心配げに赤松が覗き込む。いつもであればその位置にはネクタイとベストがある、が今は隠すものが何もない。晒された白い肌と滴るしずくに、最原は。

「〜〜〜〜っっごめん……!!」
一目散に逃げ出してしまった。残された2人のうち赤松はえ…?と呆然とし、王馬はあーあと頭の後ろで手を組んだ。

「目の前にあるものから逃げ出すなんて、だめな探偵だね!」

つまらなそうに、はたまた愉快そうに、言う王馬に、状況を飲み込めないながらも赤松が「それは違うよ!」と否定する。聞き捨てはならないセリフだから。

「最原くんは、だめな探偵なんかじゃないよ」
「ふーーん。まあそれはいいんだけどさあ、オレもプールに入っていい?」
「…うーん…私たちが終わったあとなら、大丈夫だと思うけど…」
「え〜一緒に入っちゃダメなの?うわーんひどいよー!」
「う、ウソ泣きしたってダメだよ!茶柱さんが怒っちゃうから…」
「ちえっつまんないの」

じゃあね!と嵐のように去っていった。やれやれと息をついていると、ふわりとタオルを肩にかけられた。

「何やってんの、あんた」
「風邪ひくわよ、赤松さん」

なかなか戻らない赤松を気にしてか春川と東条が呼びに来たようだ。ありがとう、東条さん、と礼を告げてタオルの端をを握る。

「あのね、最原くんが来てて、でも私を見て逃げ出しちゃったんだけど…そんなに変だったかな、これ…」
「……赤松さん、それは」
「……さあね。それよりあっちで茶柱がうるさいんだけど」
「赤松さんー!男死など放って!遊びましょうー!」
「う、うんー!」

赤松のセリフから何かを察した東条と春川だったが、まあ気にしないでおきましょう、と再び3人でプールへと戻っていった。



お題「水着」
170511


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