月を友にて あかす頃 | ナノ

仮装妄想大暴走!



お昼が近くなったので食堂へ向かうと、何やら騒がしい声が聞こえる。ここでの生活はまだ数日しか経ってないが、もはやまたか、といった感じだ。中に入ると案の定ロボットの彼と総統の彼がいつもの調子で戯れている。違うのは、恰好。周りにいる皆も何やら違う。どれも見たことはある服装だが、ちぐはぐだ。例えるなら不協和音、といったら失礼かもしれないが、そういう感じがある。これは、どういうことだろう。扉の前で首を傾げるピアニストに探偵が気づく。

「赤松さん」
「さ、最原くん、キミも…なの?どうしたのこれ?」
「えっと…そんな深いワケがあるわけじゃないんだけど…」

紫色のジャケットを羽織った最原が話し始める。事の発端はやはり王馬らしい。曰く、この学園に閉じ込められてから数日、ずっと同じ服ばかり着ててつまらない、と。誰もが知ってる通り、自室の部屋のクローゼットには何着も同じ服が揃えられている。まったくここで自分たちにこんなことをさせている者は何を考えているのか。それは赤松とて思ってたことだ。しかし制服みたいなものだと割り切っていた。授業も何もない、ただクラスメイトと交流を深める日々。それをつまらないと切り捨てた彼は気まぐれに衣装交換でもしようよ!と言い出した、らしい。
『まあ真っ裸のキーボには関係ない話だけどね!ロボは服なんて必要ないもんね!』
そこからはお決まりの流れになった、と。赤松は直接見ていないが目に浮かぶ光景だ。

「で、王馬くんだけじゃなくて白銀さんも乗っちゃって…」

いつもは端っこで突っ込み役をしている白銀も、ここでは趣味が出来ないうっぷんがたまっているのか珍しく中心に立ってはしゃいでいる。体格差がそんなにない人同士をトレードさせたり、思い切って男女で交換してみたりと楽しそうだ。その横で「ウチの帽子が…」「転子のリボン!似合ってますよ夢野さん〜!」などとテンションの差が激しいマジシャンと合気道家がいた。一人体格が小さいテニス選手は我関せずとお茶を飲み、「俺は大した恰好してないから交換も出来ないっすね」と苦笑する天海に「僕もこの制服は貸せないからいいんじゃないカナ。それより服というものはね…」と民俗学者は話している。

「それで、最原くんたちも?」
「うん…」

百田くんのこれ、僕にはちょっと大きいから落ち着かないんだよね。と困ったように腕を上げる最原は確かにジャケットの袖が余っていて、ちょっとかわいいななどと赤松は思ってしまった。

「何だよ終一、オレのこれ気に入らねえのか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど…」
「あれ?百田くんは変わってないんだ?」

すっと現れた宇宙飛行士はいつもと変わらず宇宙をはためかせながら、「おう!オレはこの衣装気に入ってっからな!」と快活に笑っている。
「ま、せっかくだから助手たちにもこれの良さを味わわせてやろうと思ってな。…お、ハルマキ、おまえも着るかー?」
そう言って百田はテーブルの端で呆れ顔で座る保育士に駆け寄っていった。「だ、誰が…!」と適当にあしらわれていたが。

「…こんな感じで何だか意外と皆楽しんでて、収拾がつかなくなってるんだよね…」
「うーんなるほど…」

それはいいことではあるが、お昼ごはんが食べられない。そういえばお腹すいてたんだった、と思い出す。普段有り難くも皆の食事を作ってくれるメイドは、さすがに依頼であれどこのメイド服を脱ぐわけには、ええーでも東条さんスタイルいいからきっと似合うよ!と白銀と押し問答をしていた。

「…何だか私もしてみたくなってきたかも」
「赤松さん、それ白銀さんの前では言わない方がいいよ…」
「でもせっかくだから参加したいなあ」

もはや気分は仮装パーティである。赤松はきょろきょろしながら、ふとテーブルに帽子が置かれていることに気付いた。黒いキャップ。目の前の彼が、出会ったときにつけていたもの。赤松は躊躇うことなく手に取って、ひょいと被った。

「えっ?赤松さん…?」
「えへへ、最原くんのコスプレ!なんてね」
「……」
「…あ、ごめん、引いちゃった?」
「いや、その、えっと…」

何やら頬を染めた最原が、帽子を深く被ろうとし、被っていないことに気付き、あわあわしている姿に、私…そんなに変なことしちゃったかな…と同じようにあわあわしてしまった赤松だった。



お題「コスプレ」
170504


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