アンダンテ | ナノ

Have a nice week!

ジャイロが小さな容器を傾けると、彼の手のひらにどろりと白い液体が注がれた。それを満遍なく伸ばした両手をこちらに向けてきて、思わず顔を引く。
「逃げんなよジョニィ」
「…逃げさせてくれ」
と言っても後ろには車椅子の背があり、ど真ん前にはこのジャイロがいる。観念するしかないのか。

GWに奇跡的に休暇がとれたということで旅行することになった。前々から行きたいね、そうだな、と言い合って観光雑誌などを読むだけで終わるのが二人の常だったのだが、今回は違う。一緒に家を出て、飛行機に乗って、リゾート地へと向かうのだ。思い描いていたことが叶うことになって嬉しさが半分、こんな身体では迷惑ばかりかけるのではと不安が半分だった。しかしそんな心配もどうでもよく思えてくるぐらいには浮かれていた。ジョニィが、ではなくジャイロがだ。旅行用の大きなバッグを買ってきたり、行き先についてインターネットや雑誌で細かく調べたり、評判を知人に聞いたりと、見るからに浮かれていた。旅行が決まった1ヶ月くらい前から、ずっと。さすがにちょっと、行く前からはしゃぎすぎじゃないか?と疑問を零せば、そりゃおめーと初めて旅行に行けるんだから当然だろ、と返された。あんな姿を見せられたら、そんなことを言われたら、自分も引け目など感じずに、彼と一緒に存分にこの旅行を楽しもうじゃないかという気持ちが沸いたジョニィだった。そう思えることがどんなにすごいことかなんて、きっと彼は知らない。

そうして迎えた当日。時刻はAM7:45.空港に向かわなければならない時間までまだ余裕はある。荷物のチェックを繰り返していたジャイロが突然日焼け止めクリームは塗ったか、と聞いてきた。
「いいや?」
「…やっぱりな」
ジョニィ、向こうは日差しがこっちよりずっと強いんだ、日焼け止めをしっかりしておかなきゃいけないんだぜェ。
そういえば旅行用に新しい帽子を買いに行こうと提案されたこともあった。二週間くらい前だったか。今被っているこれが気に入っているのだから別にいらないと一点張りして、ちょっとした喧嘩になった。そのときも日焼けがどうのこうの言っていた気がする。
「あのなァ、オレのやつはつばがあるけどおめーのはねえんだから、せめてしっかりこれ塗っとけ」
「えー……」
「えーじゃない」
嫌ならオレが塗る。マジかよジャイロ。あれよあれよという間にジャイロはクリームをつけた手をにゅっと伸ばしてジョニィの頬に触れてきた。ひんやりした感触に少し顔が強ばる。
「マジかよジャイロ…」
「マジだよ」
大人しくしとけ、と言われて諦めてじっとすることにした。両頬を包まれながらクリームが丹念に塗られていく。無骨なのにふわふわしているジャイロの手。耳や唇に触れる指先。それはそれは楽しそうに、そして愛おしそうにこちらを見つめてくる目。
なあジャイロ。ぼく思うんだけどこれって向こうに着いてから塗るもんじゃない?今やってもあんま意味なくないか?
まあそうだな、っておい。じゃあ何なんだこの時間は。ぼくの頬に熱が集まっただけじゃないか。
いいんじゃねェの?とジャイロはにょほにょほ笑っている。
なあジョニィ、旅行楽しみだな。
…それには頷くけど、向こうに着いたらまずは君の顔にもクリーム塗りたくってやるからな。





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皆さんどうぞよいG(ジャイジョニ)W(ウィーク)を!
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