アンダンテ | ナノ

あさのおはなし

「おーいジョニィ、わりいけどちょっとここ叩いてくれねえか」
朝食に使った道具やら寝具やらを片付けているときだった。バッグにものを詰め終えたジョニィの前に来て、ジャイロがいきなり自分の頬を指さしながらそんなことを言ってきた。
「……は?何で?」
「何かまだ眠くてよ……眠気覚ましに一発頼む」
言いながらあくびをしているジャイロは本当に眠そうだった。普段短い時間でもきっちりと睡眠をとり、起きてからは眠気を引きずらない彼にしては珍しい。このままでは今日の走りに支障をきたすだろうし、断る理由など何もないのでジョニィは了承した。
「思いきりいっていいぜ」
「うん」
頷き、大きく右手を振りかぶって、勢いよくジャイロの頬を叩いた。ばちん、と小気味いい音、そして、
「〜〜〜ッッッてえええ……ッ」
といううめき声が響き渡った。少し離れたところにいたヴァルキリーとスローダンサーは驚いて二人に視線をやったが、特に異常があったわけではなさそうだとすぐに判断して再び草を食み始めた。
「これで良かったか?……ジャイロ?」
「…………」
右手で頬をおさえながら蹲るジャイロの姿に焦ってしまった。そっと顔を覗き込んで様子を伺う。
「大丈夫?そんなに痛かった?」
「……お前さんの力ナメてたわ……すげェー痛かった……」
一応加減したつもりだったのだが、やりすぎたようだ。いやしかし、と弁明しようとする。
「お、思いきりでいいって言ったのは君だぞ」
「わーってるよ。…ありがとな」
ようやく顔を上げて礼を言うジャイロにホッとしながらもやはり申し訳なさがこみあげてきて、今度はジョニィが俯く番だった。
「…すまなかったジャイロ」
「ま、これでバッチリ目覚めたから気にすんな。でも次はもーちっと手加減してくれ」
ジャイロは笑いながら立ち上がって愛馬たちに声をかけた。
「そうする……って、次もあるのか」
「あるだろ、まだ先は長いんだからよ」
寄ってきたヴァルキリーに今日も頼むな、と言ってその背に乗った。
「そうか…わかった」
ジョニィも同じようにスローダンサーを一撫でしてから乗る。
「んじゃ行くぞ、ジョニィ」
「うん」
今日も二人と二頭の一日が、始まる。




試行錯誤感がすごい
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