アンダンテ | ナノ

Amice e vino hanna essere viecchie.

このワイン、味がしないな。安物なのかもしれない。このワインボトルを持っていた奴はそんなにいい給料を貰ってないのだろう。至極どうでもいいけれど。それにしてもさっき飲んだこの町で一番高いワインと比べると明らかに質が劣る。あれはおいしかったな。時間が迫っているからじっくり味わってる暇がないのが惜しいくらいだった。そういえばあのときも乾杯した気がする。してる場合じゃないだろとぼくは突っ込んだけど、こういうのは雰囲気が大事だろなんて言われてグラスをカチンと鳴らせた。そうだ、確かにあのときは洒落たレストランで高い料理とワインに舌鼓を打っていたというのに、今は何て様だろう。体の芯から凍えさせるような吹雪の中、地面に座り込んで、敵の飲みかけのワインをぼろっちいカップに入れて、飲んでいる。腐るほどあったお金も貴重な遺体も全部全部使い切った。何もかもなくなった。あるのは遺体と交換したこのワインだけ。―目の前でぼくと同じように黙って飲んでいる、友の存在だけ。

なあ、君は一度は見捨てたぼくを責めなかったな。木の根化したときに助けてくれとも叫ばなかった。元に戻ってきたときに礼を告げたりもしなかった。ただ乾杯しねーかとだけ言ってきた。

―何に?
―次の遺体に

なんて。遺体集めなんてしないって言ってたくせに。第一の目的はレースの優勝であるくせに。結局君は遺体のことも視野に入れている。そのせいで命を落としかけたことが何度あっただろう。ぼくは最初に言ったじゃないか。あんたはレースを続けていればいいだけなのにって。どうしてそれが出来ないんだ。どうして「次」を指し示してくれるんだ。どうして、その言葉を嬉しく思ってしまう自分がいるんだ。

結局ぼくだって、諦められないのだ。遺体が欲しい。どうしても手に入れたい。だけど同じようにたった一人の友人も失いたくない。そんな欲張りを許してくれるなら、これからも共に歩んでくれるなら、ぼくはこの先、君もいる未来を見据えて祈りたい。

―次の遺体と、ゴールに……
―次の遺体と、ゴールに……

そっと足した言葉はためらわれることなく復唱された。煽ったワインの味は、やっぱりしなかった。



#ジャイジョニ版深夜の60分一本勝負 お題「ワイン」
170604


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