アンダンテ | ナノ

Cheers to cheese

「なあジャイロ、前に君が作った歌、歌ってくれないか」
「前作った…?ああ、チーズの歌か?何だよ急に」
「何となく」
「…まあいいけどよ」

レラレラレラレラ...♪

「うん、やっぱり最高にイケてるね」
「だろ?」
「でも何でチーズの歌っていうんだこれ。チーズ出てないのに」
「え」
「え」


ずっと騎手をやってたらしいジョニィは学校にもろくに行ってなかったようだが、知識があまりない、ということはない。どこでどうして知り得たのかもわからない謎の知識には、たまに感心する。だが妙に偏ってるように思うのは気のせいか。アリゾナ砂漠の生物は知ってて何で恐竜は知らねえんだ。話が噛み合わないことがあるのは文化の違いもあるんだろうかと考えた。ネアポリスとアメリカで、生まれ育った環境が違いすぎるのだ。しかしジャイロには一般的なアメリカ人がこんなものかどうかはわからない。思えばこの国に来てからそこそこ経つが、わからない。何せ親しくなった者などいなかったのだから。隣を走るこの青年以外は。

ともかく自分にとっては当たり前のものも知らないのだということは、不思議な気持ちだった。


「モッツァレラってチーズだったのか…」
「ゴルゴンゾーラもな。つーかピザも食ったことないってマジか」
「ああ。高カロリーなものなんだろ?そういうものは食べてこなかったから」
「それもそうか…いやでもあんなノリノリで歌ってたのにおまえ…」
「耳にこびりついたからね」

ゾラゾラゾラゾラ…とジョニィが小さく歌うがジャイロはまだ驚きが隠せない。まさか言葉の意味を理解せずに語感とメロディだけを気に入ってくれていたとは。いや、素直に嬉しいが少し釈然としない。

「イタリア語なんだろうなとは思ってたが」
「ヨーロッパで大ヒットするって言った理由は」
「ああ、こっちじゃあまり馴染みがないからな、ヨーロッパから広めたほうがいいんじゃないかって」

こっちで流行らすというのも手かもしれないが、と至って真顔でそんなことを言う。何だよ真面目に考えてくれてたのか。やはりバンド組むしかねえなと思いつつ、だがその前に、とジャイロは一つ心に決めた。自分の歌。故郷の味。知らないのならば、することは一つだ。





いいにおいがする。目が覚めて起き上がると、スローダンサーがそっと近づいてきたので「おはよう」と言ってその頭を撫でた。走っているときは一体感を感じる愛馬も、地べたに座っているときは遠く感じる。しかしそんなことは関係とばかりに顔を寄せてくる愛馬には愛おしさを感じずにはいられないジョニィだ。

「起きたかジョニィ」
「おはようジャイロ。…何だ、それ」
「今日は特別だぜェ〜」

待ってましたというような顔をしたジャイロに、フライパンから皿へと移されたそれを渡された。ミートソースがかかった丸いパンの上に、とろとろにとろけたチーズと真っ赤なトマト、そして緑のバジルが乗っかっていた。湯気をたてているそれを見た瞬間にお腹が鳴ってしまった。

「ジャイロ、もしかしてこれ」
「おう、パンで作った簡易ピザだ!」

どうよ!とジャイロは腕を組んで得意げだ。いつだかに食べたことがないと話したが、まさか作ってくれるとは思わなかった。冷める前に食えよ、と言われるがままにかぶりつく。

「どうよ?どうなのよ?」
「…うまい」
「だろ!本場のはこんなものじゃねえけどな」

曰く、モッツアレラはもっと伸びるチーズであり、生地ももっとふわふわなのだと。さすがに野外では作れなかったがいつかちゃんとしたやつも食わせてやる、と自身もかぶりつきながらジャイロが言う。しつこくはないが濃厚なチーズを飲み込みながらジョニィは首を傾げる。いつだって彼の行動は突然だ。

「それは…構わないけど、何でまた」
「…。…あの歌歌うならよ、やっぱ理解してないとだめだろーが」

それだけだ、なんて含みを持ったジャイロの言いように、絶対それだけでないだろうと感じ取ったジョニィだが、深く突っ込むのはよした。せっかく作ってくれたのだから、有難く頂戴しよう。その気持ちは素直に、嬉しかったことだし。

「これって君の故郷の料理なんだっけか」
「まあな」
「ふうん」
「んだよ、聞いといて」
「いや」

君の歌の言葉の意味。君の故郷の味。知らないことはたくさんあって、知りたいと言ってはないことも一つ一つ教えてくれる君が、誇らしげに故郷のことを語る君が眩しくて少し胸が軋む。だけどもっと教えてほしい。最初に出会ったときは回転の技術だけが目的であったのに、知りたいことが増えてしまったものだな、とジョニィは何だか可笑しく思った。



#ジャイジョニ版深夜の60分一本勝負 お題「ピザ」
170528


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