アンダンテ | ナノ

2ndステージ序盤の話

「え?あんたら友達じゃないのか」
驚いたようにマウンテン・ティムが言う。


2ndステージ二日目の夜。ひたすらに走り続けたので恐らく"悪魔のてのひら"からは脱出できただろう…恐らく、なのでまだ油断は出来ない。もしかしたらまた何者かが奇妙な能力を使って襲ってくるかもしれない。ただでさえ何もない砂漠を突き進むのは体力も精神力も使うというのに、緊張が緩むことはなかった。そしてジョニィは眠れずにいた。ティムが先に見張りをしてくれるといったが、もう少しだけ起きていることにした。早々に毛布を被ったのはもう一人の男―ジャイロだ。

「おい、寝とかなきゃもたねえぞジョニィ」
「それは…わかってるよ」
「まあ、落ち着かないよな。オレは構わないさ。話し相手がいた方が退屈は紛れるしな」
「…ああそうかよ」

交代の時間なったら起こすからな、と言ってジャイロはこちらに背を向けた。そんなわけでたき火とと砂風の音だけが響く夜の砂漠で、先日から成り行きで同行しているマウンテン・ティムと話していた。


どういう関係なんだ?と何気なく振られた質問にただの協力関係だ、と答えた。つい昨日―自分たちを襲ってきたブンブーン一家のように家族参加ではないし、レースが始まる前は知り合いですらなかった。あそこで寝ている(とはいえ限りなく浅い眠りだ)男には、回転の技術を教えてもらうためについてきてるだけなのだと。そういうジョニィにティムは首を傾げるが、逆にこちらが疑問に思う。

「何で驚くんだ?」
「いや…見ている限り、とても数日前に出会ったとは思えなかったからな。ましてこの大きなレースで同行しているんだ。兄弟か、友達なのだと思ってもおかしくないだろう?」
「…どっちも違うけどね」

自分たちはそういう風に他人から見えるのか、と何とも言えない妙な気持ちになった。協力関係とはいえジャイロは基本一人で進める奴だ。その背中に何とか食らいついている…ジョニィの認識はそういうものだ。ジャイロもそうだろう、きっと。

「友達だったらもっと話し合って進んでるよ。このルートだってジャイロが勝手に決めたんだからな。ティムならわかるだろ?砂漠はいかに水をきらさずにいられるかが大事だってこと。なのにあの男ときたら!」

2ndステージが始まったときにジャイロが迷いなく突っ走っていったのを見て感じた怒りが再びわきあがる。まったく、始まる前の作戦会議は何だったのだろう。そしてこのルートでは変な奴らにばっか出くわしてるような気がする。もっとまともな道を行っていればまともな参加者がいたんじゃないか。そんなこと言っても仕方ないが。

「そうか。ひどい男だな」
「そうだよ」

ティムは何やらおかしそうにくつくつと笑っていた。同意が得られてジョニィは幾分スッキリした。ああ、でもそういえば。初めに自分たちを追ってきたミセスロビンスン。虫を体内に飼うとんでもない男の攻撃にやられてジョニィが落馬したとき、ジャイロは先に行かずに逆にロビンスンに向かっていったのを思い出す。まだ相手が攻撃したのか確実ではなかった。もしもこちらから手を出して、遠くの空を飛ぶ気球に見つかったならばその時点で失格となってしまう。そんなリスクは避けたいだろうに、先を急いでるだろうに、

「ジャイロはぼくを、置いていかなかった…」

砂埃がついた右手を見やる。突如回転し出した爪が窮地を切り裂いた。悪魔のてのひらとやらが未知なる能力を引き出したのだとしても、回転する能力ということはきっとジャイロが教えてくれたことと無関係ではないだろう。まだまだ理解が及ばないことだらけだ。この力のことも、彼本人のことも。ジャイロについていったらいつかわかるだろうか。ちゃんと教えてくれるだろうか。いや、教えてくれるまで追いかけるまでだ。

「ジョニィ・ジョースター」
「…え?なに?」
「友達じゃないなら、なおさらだな」

黙ってジョニィの、独り言のような話を聞いていたティムが口を開く。妙にやさしい目をしていた。

「なおさら、そういう相手は大事にした方がいい」
「…何だよ、急に」
「いや?ただのおせっかいさ。…オレも歳くったな」

そう言ってわざとらしく肩をすくめる動作が様になっていて、少しだけ憎たらしい。ジャイロが見たらきっと悪態ついているだろうな。

「大事に、か…」

友達も家族も大切に思うものも大切に思ってくれるものもいない。そんな自分が、出来るだろうか。吹けば飛んでしまうように思えるこの関係を大事に、なんて。ジャイロと友達に、なんて。地面についた手で何とはなしに砂を拾い上げる。今のジョニィには、この砂のように手から零れ落ちていくだけの、掴めない話だった。




#ジャイジョニ版深夜の60分一本勝負 お題「友達」
偽証が本当になったこの感動よ…開催おめでとうございますありがとうございます!!!!
170422


Clap

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