アンダンテ | ナノ

BlowBlow

風が強い日だった。馬に乗って走ってるときであれば気にしないしむしろ追い風となって進みやすい。しかし馬から降りて休んでるときにはやっかいなものだ。帽子をとったジャイロの長い髪の毛を容赦なくめちゃくちゃにしてくる。直しても直してもキリがなかった。

「今だいぶ面白い髪型になっているぞジャイロ」
「あーくっそオレは面白くねえよ!おいジョニィ、何か髪縛るモンねえか?」
「縛るもの?そうだな…あ、これならあるけど」

言われてジョニィは自分のバッグの中を漁って赤いリボンを取り出した。リボン。予想外のものにジャイロは思った疑問をそのままぶつける。

「…何でリボンなんざ持ってるんだ?」
「この前女の子たちから差し入れもらったろ。それについてたやつだよ」
「ああ、あれか…」

そういえば以前、自分たちのファンだという女の子たちから街でお菓子をもらった。応援しています、と言われると悪い気はしなかった。しかしかわいくラッピングされたそれを受け取ることは出来ても、はたして中身は安全なものか?と疑ってしまったことは、当人たちには内緒だ。どこに敵が潜んでいるかわからず油断出来ない状況だから仕方ない、とジャイロは思ったが、ジョニィはガサガサと袋を開け始めた。

「おいおい大丈夫かそれ」
「手作り系は避けたらいいんじゃない?貴重な糖分だしせっかく女の子からもらったものだし」
「…女の子にはけっこー甘いよなお前さん」
「ジャイロが食べないならぼく一人で食べるけど」

そう言ってジョニィは袋に入っていたチョコレートの包み紙を剥がした。ふわっといい香りが漂う。

「あ、おいしいなこれ」
「ちょっと待てオレにも食わせろ」
「はいはい」

持っているチョコから一口サイズに割ったものをジョニィから差し出され、そのまま口にした。チョコレートなんてずいぶん久しぶりに食べる気がするが、確かにうまい。とびきり甘いわけでもなく、ほどよい甘さとほろ苦さが口の中に溶ける。あの娘たちはいいセンスをしているな、疑っちまって悪かったな、と少し申し訳なくなった。

「応援にちゃんと応えなきゃいけないね」
「そうだな。よし、食ったら行くぞジョニィ!」
「え」
「え、…って何だ」
「その前に、どうせなら君のコーヒーも飲みたいな。このチョコと合いそうだし。だめ?」
「…仕方ねェ〜なあ」

飲みたいとねだられたら作るのがもういつものことになっている。そんなこんなで楽しいアフタヌーンティーならぬアフタヌーンコーヒーとなったんだったか。そしてその袋に使われていた真っ赤なリボンは、何故かジョニィのバッグの底にしまわれたままだったようだ。


「結んであげようかジャイロ」

リボンの両端を両手で広げながらジョニィがそんなことを言い出した。いつもと変わりないようで、ほんのり感じられる悪戯っ子の顔。故郷の弟妹を思い出させるそれ。

「…お前何か楽しんでないか」
「そんなことはないよ」
「いや流石にリボンはねえだろ…」

ついでに遠い昔に幼い妹に髪の毛で遊ばれて、ゴムが髪に絡まり外せなくなって涙目になったことなども思い出した。ジョニィは意外に手先が器用だからそんなことにはならないだろうが、そもそも使われる道具が論外だ。大の男がつけていいものではない。少なくともオレはつけたくない。

「別に人の目もないし気にすることはないんじゃない?」
「あるだろ、目」
「誰の」
「あそこにいるレディたちだよ」

吹きつける風も何てことはない様子で今日も元気に草をはんでいる愛馬たちをすっと指さした。ジョニィはなるほど、と真顔で頷いた。

「でもスローダンサーはともかく、ヴァルキリーこそ君にとって今更気にしなくていい相手じゃないか?なあヴァルキリー…ああごめん、用があるわけじゃないよ」

名前を呼ばれたと思ってこちらに向かってきたヴァルキリーを、ジョニィは届く範囲でそっと撫でた。

「君も別にジャイロがどんな格好してようが気にしないよな?」
などと言うジョニィに応えるようにヴァルキリーの頭巾から覗かせる目は気持ちよさそうに細めている。

「(何か相棒と愛馬が仲良し!!)」
妙な対抗心が沸いてきて、ならば自分もあいつの馬と、とスローダンサーを呼び寄せようとしたところでまた突風により著しく髪が乱れた。

「…やる?」
「…くそう」

他に手段がないならこの際…、と観念したジャイロはジョニィにきれいにラッピングされたのであった。

「うんすごくかわいいイケてるよジャイロ」
「…お前にもやらせろよリボン!」
「もうないよ。これ一つしか残ってなかったし」
「ち、ちくしょう…」





その日の夜のこと。宿のベッドに腰かけ一息ついていると、突然後ろからジャイロに肩を掴まれてビクッとしてしまった。

「な、何だよジャイロ急に」
振り返ると、先ほどまでつけていた(街に着く前に外した)リボンを片手にニヤニヤした顔が目に入る。

「さっきの仕返しさせてもらうぜジョニィ〜」
「…マジ?」
「マジだ」

軽い口調ながら、ジョニィの肩を掴んでいるもう片方の手の力は、強い。
まあ誰かに見られるわけでもないからいいか…とされるがままに髪をいじられたジョニィだった。


170214

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