アンダンテ | ナノ

3rdステージ序盤の話

二つのつぶらな瞳がこちらを見ている。
「…何なんだ?」
と聞いてみると、チュミ?と逆に首を傾げられた。本当に、何なんだろう。

休憩をとることにした昼下がり、食事をしているときにこのピンク色は突然現れた。2ndステージの砂漠で敵に襲われたとき、ジョニィの(正確には遺体の)左腕から出てきたもの。あわや敵に見つかりやられるというときにジョニィのスタンド能力を引き出し、危機から守ってくれた。この左腕に納まっている遺体の守護精霊のようなものだろうと考えているが、何者なのか未だハッキリとはわからない。意志があるのなら疎通をはかってみようとしたことはあったが、そのときは呼びかけても出てこなかった。だから今日、さきほど突然出てきたときには驚いて噎せてしまった。だがこれはチャンスとばかりに話しかけてみても、やはり意志疎通は出来なかった。もしかしたらまた何か遺体の在処の手がかりを教えてくれるのだろうかと思い待ってみるも、ふらふら漂いながらチュミチュミ鳴いているだけだった。ジョニィの左腕にMovere crusと記したことなど忘れたように。

「ジャイロ…どうしよう」
「別に危害を加えてくるわけでもねーしほっとけ」

とは言われたものの、じっと見つめてこられると気になるものだ。せっかくなので食べながら観察してみる。星が散りばめられた小さな体。赤ん坊みたいな無垢な目。大きな耳と下半身から垂れ下がっているハートを4つ、ゆらゆらと揺らしながらジョニィの膝に寄りかかっていた。今までは、というか今なお正体不明の生き物であるが、こうして見ると。よくよく見ると。
「…これ、食べる?」
もう柔らかくはないパンをちぎって差し出してみる。何だこれ?とばかりにそれをしきりにつんつんされたが、どうやら口にする気配はない。
(まあ口っぽいとこないしな)
そもそも生き物ではなく精霊ならば食べる行為も必要ないのだろう。あったらそれはそれで食料問題になる、が、…ジョニィは少し、残念に思ってしまった。
ちぎったパンを飲み込みながら、今度は恐る恐るほっぺたを突っついてみる。ぶにぶに。あたたかさはないけれど、柔らかい。チュミミンと鳴くその顔に表情は見えないが、たぶん嫌がってはいない。ぶにぶに。チュミチュミ。あっどうしようこれ楽しい。
ふいに、まるで似ても似つかないのに昔飼っていた小さな生き物が頭をよぎったが、すぐに振り払った。
そうだ、名前でもつけようかな。

「なあジャイロ、…って何だよ、じっと見て」
ジャイロが妙にニヤニヤしながらこちらを見ていることに今気づいた。

「いや?珍しいモン見れたなァ〜て思ってよ」
「珍しい?こいつのことか?」
「それもあるけどな」
「…??」
含みのある言い方に疑問が浮かび、何なんだ、ともう一度聞こうとすると「で、何だよ」と先に言われてしまった。仕方ないので本来の話を続けることにする。

「ああ、こいつに名前つけたいなって」
「ぶっ」
「…何なんだよ、さっきから」
「…いや…くくっ……な、何にするんだ?」

手の甲を口に押しつけ笑いを堪えようとするもジャイロはおかしくて仕方ないといった様子だ。いったい何がそんなにおかしいのかジョニィにはさっぱりわからなかったし少しむっとしたが、聞いても答えてくれなそうなのでスルーすることにした。

「…まあ、能力と同じでいいかな。"タスク"」
「いいんじゃねえの。おーいタスクちゃん」

ジャイロが試しにとばかりに呼んでみるが、"タスク"はジョニィからつかず離れずふわふわ漂ったまま来ようとしなかった。

「だめか」
「自分を呼んでるって認識してないんじゃないか?」

果たしてこの未知のいきものの知覚レベルはどの程度なのだろうか。あの砂漠でジョニィは確かに"これ"から意志を感じた。今は、見せてくれないのか意志を無くしてしまったのか何なのか。謎は尽きないけれど、
「タスク、」
今度はジョニィが呼ぶと、チュミ?と返してくれた。「おい何でだよオレのときは反応なかったくせによ〜」というジャイロの不服そうな声は無視してジョニィはタスクを向き合う。
「改めてよろしくな、タスク」



「なあジョニィ、オレにも触らしてくれよ」
「君も触れるのか?」
「さあな」

ジョニィがぬいぐるみを掴む要領でタスクの胴体を両手でホールドし、ジャイロの前に差し出す。そうしてジャイロがそっと指で突っつくと、

「うわっ!何だこれ楽しいな!?」
「だろ!」

ジャイロもすっかり魅惑のほっぺの感触に夢中になってしまった。きゃっきゃ盛り上がる二人にタスクは、チュミーン…と初めて困惑したような声を出した。



161102

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