ONE STORMY NIGHT
雨風が窓を叩きつけガタガタと音を立てている。
「おいおい大丈夫かこの宿」
「さあ?」
雨が強くなる前に町に着けたのは運が良かった。これからやってくる嵐に備えていつもよりいい宿をとりたかったがどこも埋まっていたのは運が悪かった。ようやく見つけたその宿は嵐に耐えられるのか頼りない外観だった。現に今も建物全体が揺れているような気がする。潰れてぺしゃんこになってリタイア、なんて御免なので頼むからもってくれよ、とジャイロは祈った。
「スローダンサーたち、怯えてないといいけど」
「そんなタマじゃねえだろ?お互い」
「…そうだな」
馬は繊細であるが勇敢な生き物でもある。このレースで苦楽を共にしてきた愛馬たちは特にそうだ。それでも激しい雨音がストレスにならずにちゃんと眠れてるといいな、とジョニィは祈った。
さて2人がすることもないので暇つぶしにカードゲームをしている最中、――突如部屋の電気が消え、暗闇が訪れた。
「何だ、敵襲かァ!?おいジョニィ!」
「ジャイロ!」
「ああ!」
急いで背中合わせで臨戦態勢をとる。ジャイロは鉄球を、ジョニィは人差し指を構え、それぞれ前方の闇をじっと見据える。しかし目が慣れる頃合いになっても、誰も襲ってくる気配はなかった。外で吹き付けている風の音がどちらかのため息をかき消した。
「…ただの停電みてえだな」
「…だな。カードゲームの続き、どうする?」
「仕方ねえからもう寝るか」
「うん」
ジョニィがカードを片付けて箱にしまいサイドテーブルの上に置く間も、ジャイロは自分のベッドへ戻ろうとはせず、それどころか寝転がってしまった。
「ちょっと、ここぼくのベッドなんだけど」
「別にいいだろ」
「よくない…けど、いっか」
空いている横のスペースに身を沈めたジョニィに、自分でしておきながら「いいのかよ」とジャイロはにょほにょほ笑った。
「もう疲れたから寝る。おやすみ」
「ああ、おやすみ」
明日は太陽が顔を覗かせて気持ち良く走れるようにと、2人は祈って目を閉じた。
161004
Clap