アンダンテ | ナノ

9月25日10時38分

「い、いいのか?」と目を丸くして見上げてくる顔は実年齢(は知らないが)よりずっと幼く見えて、ふと故郷の弟妹たちのことを思い出してしまった。
「何がだ?」
「協力関係、なんて言っても、ぼくは…」
睫毛を震わせて俯く姿にオレは少し戸惑う。レースが始まる前、絶対に諦めないと意気込んで、実際に馬に乗ってオレを追いかけてきたこいつに感心していたというのに、急に覇気がなくなりやがった。
「おいおいついさっきまでの威勢はどうした?オレを負かすんじゃなかったのか」
「だって…ぼくがあんたを一方的に追いかけるのと、協力関係を結ぶとでは、わけが違うじゃないか…。あんたにメリットは、ないだろう?」
「……」
優勝を狙うレースで同じく参加してる選手と組むメリットは、なくはない。サバイバルも兼ねているこのレースは、ゴールへ向かうまでに生き残れるのかも怪しい。一人よりは二人の方が生存率も上がるだろう。ただしレースはレースなので、いつ裏切られるともわからない。そしてこの国に親しい者も知り合いすらいないオレは、誰かと組もうとは考えていなかった。なのに、何故か。それも、体にハンデがあるこいつとなんて。
…いや、逆だ。ハンデがあってなお高順位に入っているこいつは、相当の実力者のはずだ。確か元騎手だとも言われていた気がする。相棒として不足はないだろう、たぶん、きっと。
それに。
「…嫌なら別に構わねえぜ。じゃあな」
1stステージを見事駆け抜けてくれた愛馬のケアと、腹ごしらえもしなきゃな。主催者によるご馳走がそこかしらにあるが、ぜってー手出しはしねえ。仕返しでスッキリはしたが思い出すとまた腹が立つので、それを振り切ってどこか休める場所へ行こうとした。すると後ろから慌てた声をかけられた。
「……ま、待ってくれ!ぼくは…ッ」
「あ?」
「ぼくは…あんたについていく!回転の秘密を知りたいんだッ…!!」
にやり、と口角が上がったのがわかる。先程とは違う、強い意志を宿した瞳。知り合って間もないが、オレがよく知っているジョニィ・ジョースターの顔だった。そうだ、それでいい。お互い抱えている事情など何も知らなくても、諦められない何かがオレにもこいつにもあるのだ。それが本当の理由?さあ、どうだろうな。
「じゃ、これからよろしくな、ジョニィ」
「…ああ、よろしく頼む、ジャイロ」

長い長いオレたちの旅は、こうして始まった。



160925

Clap

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