アンダンテ | ナノ

君という未来に幸運を

「遠い昔にもぼくは君から何かを教わっていた気がする」
手のひらにあるコルクを回転させながらジョニィは言う。それはまだLESSONも始めの頃に持っていたものではなく、先ほどこの宿で開けたワインのやつだ。何か懐かしい、とワインを飲みながらジョニィはくるくるコルクを回している。そして突然告げられた言葉にジャイロは笑うことが出来ずにいた。
いくら長い間ずっと一緒にいるようでも、自分たちが出会ったのはたかだか数ヶ月前のことである。それ以前に会った覚えも、"遠い昔"に"何かを教えた"心当たりもない。それなのにどこかで、頭ではなく心のどこかで、その感覚がジャイロにもあったからだ。既視感?いいやそんなものじゃあねェ。ならば…何だろうか。
「…何か、って何を教わったんだお前さんは」
もしかしたら、ジョニィは知っているのだろうか。この感覚の正体を。
「さあ」
しかしジャイロの期待はあっさりと裏切られた。
「回転の技術でないことは確かだよ。…でも、同じような、戦うための力だった…んじゃないかな」
「…回転は、戦うための力じゃねえけどな」
「ぼくにとっては、立ち向かうための力だ」
そしてそれを教えてくれた君に感謝している。そう言ってジョニィは指先でコルクを弾き、きれいに円を描いたそれは再びその手に納まった。上手くなったものだと思う。もちろんまだまだジャイロには及ばないが、ゆっくりと確実に回転の技術を身につけていっているジョニィの成長は、見ていて誇らしくなる。父上も、そして"遠い昔の自分"もそうだったんだろうか、なんて。
「…酔ってんな」
「ジャイロ?」
カップに残っていた赤い液体をぐいっと呷る。
その回転は何なんだ教えてくれるまでついていくぞ、と血塗れの青年が馬に引きずられながら見せた根性に興味を持ったのはジャイロだ。青年はLESSONを受け悩みながらも技術を身につけていく。それを嬉しく思うのは今ここにいるジャイロだ。遠い昔のことなど知らない。そもそもそれって何なんだ、と堂々巡りになるので考えを打ち切った。変なことを考えているのは酔っているせいにしよう。
「おら、遊んでねえでそろそろ部屋に戻るぞジョニィ」
「ああ、うん」
宿の主人の厚意でいいワインを飲ませてもらったのはよかったが、そろそろ休まないと明日に影響してしまう。立ち上がって歩き出すとジョニィも車椅子をこいでついてくる。その膝には先ほどのコルクがちょこんと乗っていた。
「持っていくのか?」
「何となくね。いいだろ」
珍しく笑うジョニィにつられてジャイロも笑みを返した。

回転の技術と、それを取り込んだスタンドを使ってジョニィはどこまで行くのだろう。オレたちはどこまで行けるのか。その果てがどんなものであろうと今はただ進むしかない。ただオレもお前も納得出来ることを祈っているぜ、ジョニィ。



151115

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