柳は緑、花は紅、君は××
「なあ、今朝から気になってたんだがオマエ、昨日とすがたが変わってないか?」
作業が一区切りついたと思しきタイミングを見計らって話しかける。そいつはきょとんとして、先ほどまで振り下ろしていたおおきづちを作業台に立てかける。それからこの部屋に置かれているドレッサーの元までとことこ向かい、鏡を覗き込んで、ああ変わってたんだなどと軽い調子で言う。あまりに軽い。
以前、「女が髪を少しでも切っていたら気付いて褒めるのがイイ男の証なんだぞ!」とミルズとマッシモが豪語していた気がするが、こいつときたら昨日まで長かった自分の髪がバッサリとなくなり、ツンツン頭になっていることにも気づいてなかったようで驚く。というか少し呆れる。シドーとて自分の見目にそれほど興味はないが、だからってここまで変化していたらちょっとは気にかかるものだろう。
ともかく、何でそうなったのか再度尋ねてみれば、気づいたらこうなってたからわからない、と返されてしまった。ついで、自分であることに変わりはないし、物作りに支障もないから別にいいんじゃないか、とも。
言われてみれば確かに、そうやってへらへらと笑ってる顔も、ひょろっとした体つきも、しかし力強くそして楽しそうに物を作る様も、……何も変わらないか、とシドーは得心する。本人も特に気にしていないのならばなおさら何も問題はないか、と作業を再開した後ろ姿を引き続き見守ることにした。……のだが。
ねえ、シドーはどっちのぼく/わたしがいいとかあるの?
そいつはふいに振り返って、まるで新しい家具の色は何がいい? と聞くような調子で問いかけてきた。一瞬呆けたのちに、すぐに笑い返してやった。
「どちらも同じだと、オマエが言ったんだろう?」
すると少年/少女は、いつもと変わらない、へっへーんと笑みを見せたのだった。
200408