胸に残る一番星 | ナノ

  cross dressing


 メダル女学園、誰もいない倉庫の一室で、椅子に座るイレブンと向き合っている。ここは校舎の端の方にあるため生徒たちの声や物音はあまり聞こえないが、授業の始まりだか終わりだかを告げるチャイムがさきほど鳴り響いていた。耳馴染みのないメロディは、ここが神聖な学び舎なのだと実感させるようであった。そんなところで男にも関わらず特別生徒と認められた勇者さまは、何とも落ち着かなそうにしながら頬を染めている。着ているものも相まって、まるで本当に女生徒みたいだ、とは勇者さまの名誉のために口にはしない。

「別に変じゃないし、むしろ似合ってるぜ?」
「うう…いくらカミュでも嬉しくない…」

 常ならばカミュから褒められればワンコロよろしく目を輝かせるイレブンであったが、さすがに今はだめらしい。紺色のプリーツスカートを握る手はぷるぷる震えていた。ため息をつく。イレブンにではない。校舎見学は自由だが、生徒たちを怖がらせないよう制服を着用してほしいなどと言った校長にだ。女学園なのだから仕方ないのかもしれないが、せめて男性用はなかったものか。
 女制服を着ることに何ら違和感も抵抗もない女性陣は、スカートをはためかせながらすでに校内を見回りに行っている。サイズがなかったシルビアたちは、アタシたちは外で待ってるねん、と肩を落とすロウを引っ張っていった。自分もそうしたかったが、勇者さまが溢れる好奇心を抑えきれずに見学したい、というので付き合うことした。いざ着用してみれば例の呪いが発動してしまったようだが。何でも幼い頃に幼馴染の女の子とおそろいのカワイイ服を着せられて村中にお披露目されたことが小さなトラウマを思い出したらしい。

「…きついなら止めるか? それとも校長に直談判してくるか?」
「…ううん、お願いしてるのはこっちだし…それに、君が付き合うって言ったの無駄にしたくないし…」
「別にオレのことは気にしなくてもいいんだぜ」
「だって…カミュは、恥ずかしくないの?」
「ま、割り切るしかねえな」

 虎穴に入らずんば虎子を得ず、がこの状況にも言えるかはさておき、何かを得るためなら多少の危険や煩わしさも承知の上でないと進めないのである。それに、学園内を見回ってみたい気持ちはカミュにもあった。理由は言えないけれど。

「はー…」
「…何だよ」

 伏せていた顔をいつの間にか上げて、イレブンがまじまじとこちらを見ていた。

「カミュってやっぱり何着ててもかっこいいなって…」
「…いくらお前でもあんま嬉しくないぜ、相棒」

 揶揄してるつもりは少しもないのであろうが、だからこそ反応に困る。

「うーんでもこれ…打ち直したらもっとカミュに似合うもの作れそうな気がする…」
「おいおい、制服を改造する気か」
「そういえばここ打ち直しの宝珠が売られていたよな…よし、カミュ、行こう!」

 勢いよく立ち上がったイレブンに勢いよく腕を掴まれて、そのまま歩き出す。また急に鍛冶脳に切り替わったなこいつ。まあイレブンが元気なのは何よりなのでいいか、と引っ張られるがままにした。

 …と、ドアの前でイレブンがぴたりと足を止める。

「かみゅ、やばい、どうしよう」

 何だやっぱり恥ずかしくなったのか、と思ったら振り返った顔は予想以上に深刻そうだった。

「…トイレ行きたくなってきた」
「……マジか! 今かよ……」

 せめて着替える前に行っておけよ、といっても仕方ない。慌てて室外へと出るも、よくよく考えなくともここは女学園である。当然、女子トイレしか存在していなかった。イレブンの顔に絶望が宿る。

「ど、どうしよう…もう終わりだ…」
「バカ、諦めるな! 誰か入らないか見張っとくから、オレに任せて行け!」
「カミュ…ありがとう…!! 君は本当に頼もしいよ…!」

 女子トイレに駆け込む勇者さまの背中を見送りながら、そういうのはもっと別の状況で言ってもらいたいものだな…と脱力してしまったカミュだった。




お題「女装」
180917

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