胸に残る一番星 | ナノ

  幽谷にて


「マルティナは左の奴にムーンサルト! ロウじいちゃんはドルマ撃って、セーニャは回復をお願い!」

 イレブンの指示のもと、戦いは上手くいっているようだ。あの様子ならばいざというときの助太刀もいらないだろう。

「ああもうセーニャったら、おじいちゃんに逆に回復されてるじゃない……大丈夫かしら。あたしだったら即座に焼き鳥にしてるところなのに」
「この谷ごと燃えそうだからやめとけよ」
「わかってるわよ!」
「しっかし、姫さんの蹴りは見ていてヒヤッとするな……」
「あんた、マルティナさんにコテンパンに負けたものね」
「うるせ」

 問題は、自分と一緒に待機しながらむすっとしている子たちである。この調子では、イレブンたちが無事戦い終えたときに笑顔で迎えてあげられない。やれやれ、とシルビアはふたりを宥めることにした。

「ほらもうふたりとも、いつまでも拗ねないの」
「拗ねてないわよ、カミュじゃあるまいし」
「ベロニカはともかく、オレは別に拗ねてねえ」
「「……」」

 互いの言い分にまたむう、とそろって顔をしかめる。彼も彼女も普段は思慮深いというのに、こうして子どもっぽい面を見るとまだまだ年若いのだと思い知らされて、呆れるよりは微笑ましくなるものだ。


 今回、シルバーオーブを持っていると噂の怪鳥との戦いで、メンバーに選ばれたのは自分たち三人以外の面々だった。飛んでいる敵に対して強烈な蹴り技を繰り出せるマルティナ、攻撃から補助まで呪文に長けるロウと、回復に欠かせないセーニャだ。

 仲間も増えたし、立ちはだかる魔物も強くなっていっているのだから、多種多様な戦術を使っていくべきだ。ふたりの会話を聞いていたら、それは仕方ないとわかってはいても、バトルメンバーから外されたことに対して面白くない気持ちも少なからずあるのだろう。
 カミュにとってはかつて武闘大会で自分を負かしたことのあるマルティナが、ベロニカにとっては自分と違う系統ながらも魔法のエキスパートであるロウが選ばれたことが、悔しいところもあるようだ。
 少し離れたところから、複雑そうな顔で戦闘を見守っているカミュとベロニカが、いっそいじらしいわ、とシルビアは内心思ってしまう。

「……もうすぐで倒せそうだな」
「わりと弱かったわねあの鳥たち……あっシルビアさん大丈夫?」
「そういやおっさん、鳥が苦手なんだっけか」

 そう、そして自分はというと、実は鳥が苦手なのだとこの幽谷に来てから漏らしたものだから、「じゃあシルビアは待機してて大丈夫だよ!」と気遣われてしまい、ここにいる。
 必要とあらば当然戦うのに、どこまでも優しいイレブンに対して有り難いやら、情けないやらである。騎士たるもの、苦手な相手だろうと立ち向かわなければいけないのに。
 しかし今に限っては、この苦手≠利用するのもいいかもしれない。

 シルビアは両手で顔を覆い、大げさに震えてみせた。

「……そうなのよお〜〜遠くから見ててもゾッとしちゃうわあ」
「シルビアさんにもそんな苦手なものがあるなんて、意外ね」
「確かに、怖いもの知らずって感じなのにな、おっさん」
「あら、アタシだって人間なんだから苦手なものぐらいあるわよ〜」

 けれど、と続ける。

「これだけ仲間がいれば、苦手なものも補い合えて、アタシたちはどんな強敵にも立ち向かえそうじゃない?」

 自分だってまだまだ精進が必要だけれど、彼彼女よりは少しだけ長く生きてきたから。こんな風に己の力不足を感じるとき、どういう心持ちになればいいのか、示せたらいいと思う。

「……それも、そうかもな……」
「……そうね、協力し合えるのはいいことだわ」
「ええ、だからアタシたちは自分に出来ることをしましょ♪」

 バシッと、どこからともなく近づいてきていたエビルドライブをムチで追い払った。カミュもベロニカも、先ほどのような陰はなくなった顔で頷いたのを見て、シルビアはにっこりと笑みを浮かべる。

 ようし、それじゃあ気持ちを切り替えて。
 
「カミュ〜! ベロニカ〜! シルビア〜! シルバーオーブあったよ〜〜!」

 きらりと輝く球を手にしたイレブンちゃんたちを、笑顔で労いましょうか。




お題「鳥」(のつもりでした)
210925

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