アニバーサリー(フライング)
パシオにはバディーズをイメージしたコスチュームを製作するデザイナーがいる、と噂に聞いたことはある。マジコスと呼ばれるそれを着ければポケモンの気持ちがよくわかるようになり、バディとの結びつきが強くなる、らしい。
モデルでもあるカミツレが着用してることもあってその注目度は上がり、自分もマジコスが欲しいと願うトレーナーも少なくない。しかしそのデザイナーは、どうも気まぐれに目をつけたトレーナーにしか作ってあげないんだとか。
だからまさか、パシオに来てからそれほど時間が経っていないはずの友人が抜擢されるなんて、トウヤはちっとも想像していなかったのだ。
「どうかな、トウヤ」
「……っ」
どう、と聞かれても困る、なんてことはこれまで何度もあったけれど、今がいちばん難しいかもしれない。
レシラムをイメージしたらしいそのコスチュームは、端的に言えばとても、Nに似合っていた。白いコートに黒の裏地と、ぱっと見の色合いだけなら普段の格好とそう変わらないかもしれないけれど、全然違う。
そもそもNのいつもの服なんて、イッシュを旅していた頃から変えてないようだからほつれていたり汚れていたり、もうボロボロなのだ。ポケモンたちにかじられたり舐められたりして依れている部分もない、ピカピカの新品の服に包まれているそのすがたは新鮮だった。
そしてフォーマルな装いはスマートでかっこよく、裾がひらひらしているところや首元に飾られた赤い花は何ともかわいらしく、全体的に気品も感じられてきれいだとも思う。しかしそんな褒め言葉をすらすらと口から出せるほど、トウヤは大人ではなかったし冷静でもなかった。
「えっと……」
「うん?」
「す、すごく……似合ってる、よ」
色んなことを思ったのに、結局ありきたりな感想しか出てこなかった。本心ではあるものの、もっと何か気の利いたことを言えたらいいのに。Nを前にすると、心臓が震えるからいけない。キラキラとして見えるのはその格好のせいか、はたして。
「そうか」
その返答だけでは気持ちがわからなくて、恐る恐る顔を上げれば、ほんの少しだけ頬を染めたNがいた。
「この場合、どういう形容が適切なんだろうか、レシラム。…………ふむ、トウヤ、ボクは今『こそばゆい』ようだよ」
「……そ、そうなんだ……」
「うん。……悪くないね」
そう言って微笑むNに、こっちの方がこそばゆいよ! とは、やはり言えないトウヤだった。
ありがとうポケマスありがとう……早く眺め回したい
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